「社内ネットワークは本当に安全なのだろうか」――テレワークの普及やクラウド利用の拡大により、ネットワークの境界があいまいになった今、こうした不安を抱える情報システム担当者は少なくありません。しかし対策範囲が広いため、何から手をつければよいか判断しづらいのが実情です。
本記事では、ネットワークセキュリティの基本的な考え方から、企業が押さえるべき具体的な対策の全体像、自社の弱点を把握する診断方法までを体系的に解説します。
対象読者
- 企業のセキュリティ担当者や情報システム部門の方
- ネットワークセキュリティの基礎を学びたい方
- 自社のセキュリティ対策に不安を感じている経営層
- SCS評価制度★3取得を検討されているご担当者
課題
- どのようなサイバー攻撃の脅威があるか把握できていない
- 効果的なセキュリティ対策の具体的な進め方が分からない
- ゼロトラストなど最新のセキュリティ概念を理解したい
この記事で分かること
- ネットワークセキュリティの正確な定義と守るべき要素
- 不正アクセスやマルウェアなどの代表的な脅威と対策
- 自社環境を守るための実践的な3ステップの導入手順
ネットワークセキュリティとは?【定義】

ネットワークセキュリティとは、企業や組織のコンピューターネットワークを不正アクセスや改ざん、情報漏えいなどの脅威から守るための対策や仕組みのことです。インターネットや社内ネットワークを経由した攻撃を防ぎ、安全な通信環境を維持するために不可欠な取り組みとなります。
なぜ今、ネットワークセキュリティが重要なのか
なぜ今、ネットワークセキュリティが重要なのかというと、テレワークの普及やクラウドサービスの利用拡大によって、守るべきネットワークの境界が曖昧になっているためです。従来は社内と社外を分ける境界を防御するだけで十分でしたが、現在では社外から社内システムへアクセスする機会が増加しています。
また、サイバー攻撃の手法も高度化しており、一度の侵入で甚大な被害をもたらすケースが後を絶ちません。総務省から発表されている令和5年版 情報通信白書においても、サイバー攻撃の脅威が高まっていることが指摘されています。そのため、企業は事業継続や社会的信用を守るために、強固なネットワークセキュリティ対策を講じることが急務となっています。
情報セキュリティ・サイバーセキュリティとの違い
情報セキュリティ・サイバーセキュリティとの違いについて、それぞれの対象範囲を整理して理解することが大切です。これらは混同されやすい言葉ですが、保護する対象や目的によって明確な違いがあります。
| 用語 | 保護の対象と定義 |
|---|---|
| 情報セキュリティ | 紙媒体やデジタルデータを含む、組織が保有するすべての「情報資産」を保護する取り組みです。情報の機密性、完全性、可用性を維持することを目的としています。 |
| サイバーセキュリティ | デジタル化された情報や、サーバー、パソコン、スマートフォンなどのIT機器、およびそれらを取り巻くサイバー空間全体をサイバー攻撃から保護する取り組みです。 |
| ネットワークセキュリティ | サイバーセキュリティの一部であり、通信経路である「ネットワーク」そのものを不正アクセスや盗聴などの脅威から保護することに特化した対策です。 |
このように、情報セキュリティという大きな枠組みの中にサイバーセキュリティが含まれ、さらにその中にネットワークセキュリティが位置づけられるという関係性になっています。それぞれの役割を正しく認識することで、企業はより効果的なセキュリティ対策を構築することができます。
ネットワークセキュリティで守るべき3つの要素(CIA)

ネットワークセキュリティで守るべき3つの要素(CIA)とは、情報セキュリティマネジメントの基本となる概念です。これは、機密性(Confidentiality)、完全性(Integrity)、可用性(Availability)の頭文字をとったものであり、これら3つのバランスを保つことがネットワーク環境を安全に維持するために不可欠です。
各要素の具体的な意味と、ネットワークセキュリティにおける役割は以下の表から確認できます。
| 要素 | 英語表記 | 意味とネットワークセキュリティにおける役割 |
|---|---|---|
| 機密性 | Confidentiality | 許可されたユーザーだけが情報にアクセスできる状態を保つことです。 |
| 完全性 | Integrity | 情報が改ざんされたり破壊されたりせず、正確で最新の状態に保たれていることです。 |
| 可用性 | Availability | 許可されたユーザーが必要なときにいつでもシステムや情報にアクセスできる状態を維持することです。 |
機密性を高めるためには、アクセス制御やデータの暗号化を実施します。これにより、外部からの不正なアクセスや情報漏えいを防ぐことができます。完全性の確保においては、デジタル署名やアクセスログの監視を導入することで、データが意図せず変更されるリスクを低減できます。可用性については、システムの冗長化やバックアップを適切に行うことで、障害発生時でも業務を継続できます。
これらの要素は独立しているわけではなく、相互に影響し合っています。例えば、機密性を過度に高めると、正当なユーザーのアクセスまで制限してしまい、結果として可用性が低下する可能性があります。そのため、自社の業務内容や扱う情報の重要度に応じて、最適なバランスを見つけることが重要です。ネットワークセキュリティ対策の基本方針を策定する際は、総務省の「国民のためのサイバーセキュリティサイト」から提供されているガイドラインなどを参考にすることで、より確実な対策を実施できます。
ネットワークセキュリティを脅かす代表的な脅威

ネットワークセキュリティを脅かす代表的な脅威は、年々手口が巧妙化しており、企業や組織にとって深刻な課題となっています。情報通信ネットワークを安全に運用するためには、どのような脅威が存在するのかを正しく理解することが不可欠です。ここでは、特に注意すべき3つの脅威について詳しく解説します。
不正アクセス・盗聴
不正アクセス・盗聴は、悪意のある第三者がシステムやネットワークに侵入し、機密情報を盗み見たり改ざんしたりする手口です。攻撃者は、脆弱なパスワードを推測するブルートフォース攻撃や、フィッシング詐欺から入手した認証情報を悪用してシステムに侵入します。
また、暗号化されていない通信経路上でデータをやり取りすると、通信内容を傍受される「盗聴」のリスクが高まります。特に公衆Wi-Fiなどを利用する環境では、通信内容が第三者に筒抜けになる危険性があるため、VPN(Virtual Private Network)などを活用して通信を暗号化することが重要です。
マルウェア・ランサムウェア
マルウェア・ランサムウェアは、コンピュータウイルスやトロイの木馬など、システムに害を及ぼす悪意のあるソフトウェアの総称です。中でも近年猛威を振るっているのがランサムウェアです。ランサムウェアに感染すると、端末内のデータが暗号化されて使用できなくなり、復旧と引き換えに身代金(ランサム)を要求されます。
企業がランサムウェアの被害に遭うと、業務が完全に停止してしまうだけでなく、顧客情報の流出による信用失墜など、取り返しのつかない事態に発展する可能性があります。警察庁が公開しているサイバー空間をめぐる脅威の情勢からも、企業規模を問わず多くの組織が標的となっていることが確認できます。感染経路としては、不審なメールの添付ファイルや、VPN機器などの脆弱性を突いた侵入が主流となっています。
DDoS攻撃
DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃は、複数のコンピュータから特定のサーバーやネットワークに対して一斉に大量の通信を送りつけ、サービスをダウンさせるサイバー攻撃です。攻撃者は、マルウェアに感染させて乗っ取った多数の端末(ボットネット)を操り、標的となるシステムに過剰な負荷をかけます。
DDoS攻撃を受けると、Webサイトの閲覧ができなくなったり、社内システムへのアクセスが遮断されたりするため、事業継続に大きな支障をきたします。攻撃の規模は年々拡大傾向にあり、単なる嫌がらせ目的だけでなく、他のサイバー攻撃から目をそらさせるための囮として使われることもあります。
これらの代表的な脅威について、それぞれの特徴と主な被害内容を以下の表にまとめました。
| 脅威の種類 | 特徴・手口 | 想定される主な被害 |
|---|---|---|
| 不正アクセス・盗聴 | 認証情報の窃取や通信経路の傍受による侵入 | 機密情報の漏えい、データの改ざん、システムの不正操作 |
| マルウェア・ランサムウェア | 悪意のあるソフトウェアによるデータの暗号化・窃取 | 業務システムの停止、身代金の要求、情報漏えいによる信用失墜 |
| DDoS攻撃 | 複数端末からの一斉通信による過剰負荷 | Webサイトのダウン、ネットワークの遅延・遮断、サービスの停止 |
これらの脅威から組織を守るためには、ネットワークの脆弱性を定期的に把握し、適切な防御策を講じることが求められます。
ネットワークの「境界」を守る対策

ネットワークの「境界」を守る対策は、外部からの脅威を防ぐための第一線として非常に重要です。従来のネットワークセキュリティでは、社内ネットワークとインターネットの間にファイアウォールなどの境界を設け、内部を安全な領域として保護する境界型防御が主流でした。ここでは、境界防御を強化するための具体的な対策についてわかりやすく解説します。
アクセス制御とシャドーIT対策
アクセス制御とシャドーIT対策は、社内ネットワークへの不正な侵入を防ぐために欠かせない取り組みです。アクセス制御では、ファイアウォールIPS(侵入防止システム)を活用し、通信の許可と遮断を厳密に管理します。これにより、外部からの不審なアクセスを遮断できます。
また、従業員が会社が許可していないデバイスやクラウドサービスを業務で使用する「シャドーIT」は、重大なセキュリティリスクとなります。シャドーITを放置すると、情報漏えいやマルウェア感染の原因となるため、利用状況を可視化し、適切なアクセス制御を実施することが求められます。
OT/IoT環境のネットワークセキュリティ
OT/IoT環境のネットワークセキュリティは、製造業やインフラ分野において急速に重要性を増しています。かつてはインターネットから切り離されていたOT(制御技術)環境やIoT(モノのインターネット)機器も、近年はネットワークに接続される機会が増加しています。
これらの機器は、一般的なITシステムと比べてセキュリティ対策が遅れていることが多く、攻撃の標的になりやすいのが現状です。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)から発表されているガイドラインなどを参考に、ITネットワークとOTネットワークの分離や、IoT機器のパスワードの初期設定からの変更、ファームウェアの定期的な更新などを実施することで、安全性を高めることができます。
無線LAN(Wi-Fi)のセキュリティ設定
無線LAN(Wi-Fi)のセキュリティ設定は、オフィスやテレワーク環境におけるネットワークの「境界」を守るために不可欠です。無線LANは電波を利用して通信を行うため、適切な暗号化が行われていないと、悪意のある第三者から通信内容を盗聴されたり、不正アクセスされたりする危険性があります。
無線LANのセキュリティを確保するためには、最新の暗号化規格を利用することが推奨されます。以下の表に、代表的な無線LANの暗号化規格とその特徴をまとめます。
| 暗号化規格 | 特徴と安全性 |
|---|---|
| WEP | 古い規格であり、簡単に解読されてしまうため現在は使用すべきではありません。 |
| WPA2 | 現在広く普及している規格ですが、一部の脆弱性が指摘されており、適切な設定が必要です。 |
| WPA3 |
最新の規格であり、強固な暗号化と認証機能を提供するため、最も安全に利用できます。 |
強固な暗号化規格を選択し、推測されにくい複雑なパスワードを設定することで、無線LAN経由の不正侵入を効果的に防ぐことができます。また、ゲスト用のネットワークを分離するなどの対策も有効です。
ソフトウェア・システムの脆弱性対策

ソフトウェア・システムの脆弱性対策は、ネットワークセキュリティにおいて非常に重要な領域です。サイバー攻撃の多くは、OSやアプリケーション、さらにはハードウェアに潜む脆弱性(セキュリティ上の欠陥)を突いて侵入を試みます。そのため、ネットワークの境界を防御するだけでなく、システム内部の各要素に対して適切な脆弱性対策を講じることが不可欠です。
エンドポイント対策:セキュリティソフトウェアの活用
エンドポイント対策:セキュリティソフトウェアの活用では、従業員が利用するパソコンやスマートフォンなどの端末(エンドポイント)を保護します。テレワークの普及から、社外のネットワークから社内システムへアクセスする機会が増加しているのが理由です。
最新のセキュリティソフトウェアを導入することで、未知のマルウェアの検知や不審な挙動のブロックを自動化できます。従来のアンチウイルスソフトウェアだけでなく、EDR(Endpoint Detection and Response)を活用することで、被害の早期発見と迅速な対応を実現できます。
Webアプリケーションの脆弱性対策(OWASP準拠)
Webアプリケーションの脆弱性対策(OWASP準拠)は、顧客や取引先が直接アクセスするシステムを守るために欠かせません。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)など、Webアプリケーション特有の脆弱性を突いた攻撃は後を絶ちません。
対策の基準として広く参照されているのが、OWASP(Open Worldwide Application Security Project)が公開しているセキュリティガイドラインです。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)からも安全なウェブサイトの作り方が公開されており、これらを開発プロセスに組み込むことで、設計段階から安全性の高いWebアプリケーションを構築できます。
| 代表的な脆弱性 | 攻撃の概要 | 主な対策方法 |
|---|---|---|
| SQLインジェクション | データベースを操作する言語(SQL)を不正に注入し、データを窃取・改ざんする攻撃 | プレースホルダを利用した安全なSQL呼び出しの実装 |
| クロスサイトスクリプティング(XSS) | 悪意のあるスクリプトを埋め込み、利用者のブラウザ上で実行させる攻撃 | 入力値のサニタイズおよび出力時のエスケープ処理 |
| 認証の不備 | パスワードリスト攻撃などから、不正にログインされる脅威 | 多要素認証の導入とセッション管理の厳格化 |
サーバー・データベースの脆弱性管理
サーバー・データベースの脆弱性管理では、システム基盤となるOSやミドルウェアを常に最新かつ安全な状態に保つことが求められます。脆弱性が発見されてから修正プログラム(パッチ)が適用されるまでの空白期間(ゼロデイ)を狙う攻撃が存在するため、迅速な対応が必要です。
定期的な脆弱性スキャンを実施し、システム内に存在するリスクを可視化することで、優先度に基づいた効率的なパッチ適用計画を策定できます。また、不要なサービスやポートを無効化し、攻撃対象となる領域(アタックサーフェス)を最小限に抑えることも重要です。
ハードウェアレベルの脆弱性にも要注意(Rowhammerの例)
ハードウェアレベルの脆弱性にも要注意(Rowhammerの例)という点も、近年では見過ごせない課題となっています。ソフトウェアのアップデートだけでは解決できない物理的な特性を悪用する攻撃が報告されています。
代表的な例であるRowhammer(ロウハンマー)攻撃は、DRAM(動的ランダムアクセスメモリ)の特定のメモリセルに連続してアクセスすることで、隣接するセルのデータを意図せず書き換えてしまう現象を悪用します。これにより、権限昇格などの深刻な被害を引き起こす可能性があります。対策としては、エラー訂正機能(ECC)付きのメモリを採用することや、ファームウェアのアップデートを通じてハードウェアの異常な挙動を検知し緩和する機能を有効化できます。
ハードウェア設計・IP保護に関する脆弱性(IEEE P1735の例)
ハードウェア設計・IP保護に関する脆弱性(IEEE P1735の例)は、システムの根幹を揺るがすリスクとして認識されています。半導体や電子回路の設計データ(IPコア)を暗号化して保護するための標準規格においても、実装上の不備から脆弱性が発見されることがあります。
例えば、暗号化された設計データを扱う規格(IEEE P1735)において、暗号化方式の弱点を突いて設計データが解読されたり、悪意のあるハードウェアトロイ(不正な回路)が混入されたりするリスクが指摘されました。このようなサプライチェーンに潜むリスクを低減するためには、NTIA(米国商務省 電気通信情報局)などが推進するSBOM(ソフトウェア部品表)の考え方をハードウェアにも応用し、構成要素の透明性を確保して一意の識別子で追跡管理できます。信頼できるベンダーからコンポーネントを調達し、継続的な監査を実施することが不可欠です。
暗号化・認証まわりの見落としがちなリスク

暗号化・認証まわりの見落としがちなリスクは、ネットワークセキュリティ対策を進めるうえで盲点になりやすい領域です。通信の暗号化やシステムへの認証機能は、情報漏えいや不正アクセスを防ぐための重要な基盤となっています。しかし、一度設定したまま放置してしまうと、技術の陳腐化や設定の不備から思わぬ脆弱性が生じる可能性があります。最新のセキュリティ基準に合わせて定期的に見直すことが、安全なネットワーク環境を維持するために不可欠です。
暗号化・証明書管理の見直し(MD5ハッシュ廃止の動き)
暗号化・証明書管理の見直し(MD5ハッシュ廃止の動き)は、現代のネットワークセキュリティにおいて早急に対応すべき課題となっています。過去に広く利用されていたMD5(Message Digest Algorithm 5)などのハッシュ関数は、計算機の性能向上にともない、現在では容易に解読される危険性が指摘されています。そのため、古い暗号化技術を使い続けることは、通信内容の改ざんやなりすまし被害につながる重大なリスクとなります。
国が推奨する暗号技術のリストは、CRYPTREC(暗号技術評価プロジェクト)から確認できます。このような公的なガイドラインを参照し、システムで使用している暗号化方式を最新のものへ移行することが推奨されています。
推奨される暗号化アルゴリズムと非推奨のアルゴリズム
推奨される暗号化アルゴリズムと非推奨のアルゴリズムについて、現在の基準を整理して把握しておくことが重要です。以下の表は、代表的なハッシュ関数と暗号化方式の現状をまとめたものです。
| 技術分類 | 非推奨(過去の技術) | 推奨(現在の標準技術) | 主なリスクと対策 |
|---|---|---|---|
| ハッシュ関数 | MD5、SHA-1 | SHA-256、SHA-3 | 衝突攻撃のリスクがあるため、速やかにSHA-2以上のアルゴリズムへ移行する必要があります。 |
| 通信プロトコル | SSL 3.0、TLS 1.0/1.1 | TLS 1.2、TLS 1.3 | 古いプロトコルは通信内容を盗聴される恐れがあるため、サーバー側の設定で無効化することが求められます。 |
| 共通鍵暗号 | DES、RC4 | AES | 暗号強度が不足しているため、AES(Advanced Encryption Standard)への切り替えが必要です。 |
サーバーに導入しているSSL/TLS証明書についても、有効期限の管理だけでなく、使用されている署名アルゴリズムが安全なものかを確認できます。証明書の更新漏れや古い規格の放置を防ぐことで、安全な通信経路を確保できます。
ブラウザ・端末設定に潜むリスク(オートフィル機能の例)
ブラウザ・端末設定に潜むリスク(オートフィル機能の例)も、認証まわりで見落とされがちなポイントです。多くのWebブラウザには、ユーザーの利便性を高めるためにパスワードや個人情報を自動的に入力するオートフィル機能が搭載されています。この機能を利用することで、複雑なパスワードを記憶する手間が省けるだけでなく、スムーズにログイン処理を実行できます。
しかし、端末のロック画面が適切に設定されていない場合や、マルウェアに感染した場合、ブラウザに保存された認証情報が第三者に窃取される危険性があります。利便性とセキュリティのバランスを考慮して設定を見直すことが重要です。具体的には、重要な社内システムへアクセスする際はオートフィル機能を無効化する、あるいは生体認証などの多要素認証を組み合わせることで、安全性を高めることができます。
また、従業員が利用する端末全体のセキュリティポリシーを組織内で統一し、定期的な監査を実施することで、個人の設定ミスから生じる情報漏えいを未然に防ぐことができます。
ゼロトラストネットワークとは?これからの考え方

ゼロトラストネットワークとは、これからの考え方としてネットワークセキュリティ対策において欠かせない概念です。従来のネットワークセキュリティは、社内ネットワークとインターネットなどの外部ネットワークの間に境界を設け、その境界を防御する「境界型セキュリティ」が主流でした。しかし、クラウドサービスの普及やテレワークの拡大により、守るべき情報資産が社内ネットワークの外に配置されることが増えています。そのため、すべての通信を信頼せず、常に確認・検証を行うというゼロトラストの前提に基づいた対策が必要となっています。
境界型セキュリティの限界とゼロトラストの違い
これまでの境界型セキュリティでは、一度社内ネットワークに侵入されると、内部での不正な横展開を防ぐことが難しいという課題がありました。対してゼロトラストネットワークでは、ネットワークの内外を問わず、アクセス要求のたびにユーザーの身元や端末の安全性を検証します。以下の表は、従来の境界型セキュリティとゼロトラストネットワークの主な違いをまとめたものです。
| 比較項目 | 境界型セキュリティ | ゼロトラストネットワーク |
|---|---|---|
| 信頼の前提 | 内部の通信は安全であると見なす | すべての通信を疑い、常に検証する |
| 防御のポイント | ネットワークの境界(ファイアウォールなど) | ユーザー、端末、データへのアクセスごと |
| アクセス制御 | 一度認証されれば広くアクセス可能 | 必要最小限の権限のみを都度付与する |
ゼロトラストネットワークを構成する主要な要素
ゼロトラストネットワークを実現するためには、複数のセキュリティ技術を組み合わせてシステムを構築します。これにより、多様な脅威から企業の重要なデータを保護できます。
多要素認証(MFA)と厳格なアクセス制御
ユーザーが本人であることを確認するために、パスワードだけでなく、スマートフォンへのSMS通知や生体認証などを組み合わせた多要素認証(MFA)を利用できます。これにより、パスワードが漏洩した場合でも、不正アクセスを未然に防ぐことができます。また、役職や業務内容に応じて、システムへのアクセス権限を最小限に制限することも重要です。
エンドポイントの継続的な監視
パソコンやスマートフォンなどの端末(エンドポイント)の状態を常に監視し、OSのアップデート状況やマルウェア感染の有無を確認できます。セキュリティ基準を満たしていない端末からのアクセスを自動的に遮断することで、安全な通信環境を維持できます。ゼロトラストの考え方については、総務省のテレワークセキュリティガイドラインからも詳細な情報を確認できます。
ゼロトラストネットワーク導入のメリット
ゼロトラストネットワークを導入することで、従業員は場所を問わず安全に業務システムへアクセスできます。テレワーク環境下でも、社内と同じ水準のセキュリティを確保できるだけでなく、クラウドサービスの安全な利用を促進できます。万が一サイバー攻撃を受けた場合でも、被害の範囲を最小限に抑え、迅速な復旧対応を実施できます。これからのビジネス環境において、ゼロトラストネットワークは企業の成長と安全を支える基盤となります。
ネットワークセキュリティ対策を始める3ステップ

ネットワークセキュリティ対策を始める3ステップについて、具体的な手順をわかりやすく解説します。企業や組織の規模を問わず、セキュリティ対策は場当たり的に行うのではなく、体系的なアプローチで進めることが重要です。ここでは、現状の把握から継続的な運用まで、着実にセキュリティレベルを向上させるためのプロセスを紹介します。
ステップ1|自社ネットワークの現状を可視化する
ステップ1として、自社ネットワークの現状を可視化することが不可欠です。守るべき情報資産やネットワークの構成が不明確な状態では、適切な防御策を講じることはできません。まずは、社内で利用されているサーバー、パソコン、スマートフォン、さらにはIoT機器などのすべての端末を洗い出します。また、クラウドサービスや社外からアクセス可能な接点も漏れなく把握することで、攻撃者に狙われやすい弱点を発見できるようになります。
現状を可視化する際には、以下のような項目を整理してリスト化することをおすすめします。
| 確認項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ハードウェア資産 | 社内にあるパソコン、サーバー、ルーター、Wi-Fiアクセスポイントなどの機器一覧 |
| ソフトウェア資産 | 利用しているOS、アプリケーション、セキュリティソフトウェアのバージョン情報 |
| ネットワーク構成 | 社内ネットワークの配線図、VLANの設定、外部インターネットとの接続点 |
| ユーザー権限 | システムやデータにアクセスできる従業員のアカウント情報と権限の範囲 |
ステップ2|優先度をつけて対策を実施する
ステップ2では、可視化した現状をもとに、優先度をつけて対策を実施します。すべての脆弱性に対して一度に対策を講じることは、コストやリソースの観点から現実的ではありません。そのため、情報資産の重要度と、脅威が発生した際の影響度を評価し、リスクの高い部分から順に対応を進める必要があります。
たとえば、顧客の個人情報や企業の機密情報を保管しているデータベースへのアクセス制御は、最優先で取り組むべき課題です。一方で、影響範囲が限定的な社内テスト環境の対策は、優先度を下げて計画的に対応できます。対策を実施する際は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している情報セキュリティ対策ガイドラインなどを参考にして、自社の環境に適したセキュリティソフトウェアやシステムを導入するとよいでしょう。
ステップ3|継続的に脆弱性を診断・監視する
ステップ3として、継続的に脆弱性を診断・監視する体制を構築します。ネットワークセキュリティ対策は、一度システムを導入すれば終わりではありません。サイバー攻撃の手法は日々高度化しており、新しいソフトウェアの脆弱性も次々と発見されています。そのため、定期的なセキュリティ診断やログの監視を通じて、常に最新の脅威に備える体制を維持することが重要です。
具体的な運用としては、セキュリティ専門企業による定期的な脆弱性診断を受診することや、ネットワーク機器のアクセスログを監視する仕組みを導入することが挙げられます。異常な通信や不正アクセスの兆候を早期に検知し、迅速に対応できるプロセスを整えることで、被害を最小限に抑えることができます。
よくある質問(FAQ)
ネットワークセキュリティとは具体的に何をすることですか?
ネットワークセキュリティとは具体的に何をすることかというと、企業や組織のネットワーク環境を外部のサイバー攻撃や内部の不正行為から守るために、技術的・物理的・人的な対策を講じることです。具体的には、ファイアウォールやIPS(侵入防止システム)を設置することで、外部からの不正な通信を検知し遮断できます。
また、通信内容を暗号化することで、悪意のある第三者によるデータの盗聴や改ざんを防ぐことができます。ソフトウェアを常に最新の状態に保ち、従業員に対する情報セキュリティ教育を徹底することも、重要なネットワークセキュリティ対策の一部となっています。
ネットワークセキュリティ対策で最初に取り組むべきことは何ですか?
ネットワークセキュリティ対策で最初に取り組むべきことは、自社が保有しているIT資産とネットワークの現状を正確に把握することです。守るべき情報や機器がどこに、どれだけ存在しているのかがわからない状態では、適切な防御策を講じることができないためです。
現状把握を進めるための具体的な確認項目は、以下の表のようになります。
| 確認項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ハードウェア資産 | パソコン、サーバー、スマートフォン、ルーターなどのネットワーク機器の台数と設置場所 |
| ソフトウェア資産 | 利用しているOSのバージョン、導入されているアプリケーション、クラウドサービス |
| ネットワーク構成 | 社内ネットワークの配線状況、外部ネットワークとの接続点、Wi-Fiの利用範囲 |
| データの保管場所 | 顧客情報や機密情報が保存されているサーバーやデータベースの位置とアクセス権限 |
これらの項目をリスト化し、可視化することから始めることで、セキュリティ上の弱点や優先して守るべきポイントを明確にできます。
ゼロトラストネットワークとは何ですか?
ゼロトラストネットワークとは何ですかという疑問に対しては、「社内外を問わず、すべての通信を信頼せず、アクセスがあるたびに必ず検証する」という新しいセキュリティの考え方であるとお答えします。従来のセキュリティ対策は、社内ネットワークとインターネットの間に境界線を設け、その境界を防御する「境界防御型」が主流でした。
しかし、テレワークの普及やクラウドサービスの利用拡大により、守るべき境界が曖昧になっています。そのため、ネットワークの内部であっても安全とは見なさないゼロトラストネットワークの考え方が不可欠となっています。この仕組みを導入することで、万が一社内ネットワークに脅威が侵入したとしても、被害の拡大を最小限に抑えることができます。
VPNのセキュリティに脆弱性があると聞きましたが、対策は必要ですか?
VPNのセキュリティに脆弱性があると聞きましたが、対策は必要ですかというご質問に対しては、早急な対策が必要であると強く推奨します。テレワークの普及に伴いVPNの利用が急増しましたが、古いバージョンのVPN機器に存在する脆弱性を突いたサイバー攻撃が多数報告されているのが理由です。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)から発表されている注意喚起でも、VPN機器の脆弱性を悪用した不正アクセスへの警戒が呼びかけられています。対策としては、VPN機器のファームウェアを最新バージョンにアップデートし、多要素認証(MFA)を導入することで安全性を高めることができます。
ネットワークセキュリティ対策の実例を知りたいのですが?
ネットワークセキュリティ対策の実例を知りたいのですがというご要望に対して、一般的な企業で導入されている多層防御の取り組みをご紹介します。一つの対策に依存するのではなく、複数のセキュリティ対策を組み合わせることで、より強固なネットワーク環境を構築できます。
| 対策の階層 | 具体的な対策例 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 境界対策 | 次世代ファイアウォール(NGFW)の導入 | アプリケーションレベルでの通信制御や、未知の脅威の侵入を入り口で防ぐことができます。 |
| 内部対策 | ネットワークセグメンテーションの実施 | ネットワークを複数に分割することで、マルウェアが侵入した際の内部での感染拡大を防止できます。 |
| エンドポイント対策 | EDR(Endpoint Detection and Response)の導入 | パソコンやサーバーなどの端末上で不審な挙動を検知し、迅速な事後対応を実施できます。 |
このように、侵入されることを前提とした多角的な対策を講じることで、高度化するサイバー攻撃から自社の重要な情報資産を確実にお客様から守ることができます。
まとめ

本記事では、ネットワークセキュリティの重要性から具体的な対策、そしてこれからの標準となるゼロトラストの考え方までを解説しました。
サイバー攻撃が高度化・巧妙化する現代において、ネットワークセキュリティ対策は企業にとって必要不可欠な経営課題です。情報資産の機密性・完全性・可用性(CIA)を守るためには、従来の境界防御だけに頼るのではなく、すべてのアクセスを疑う「ゼロトラスト」の前提に立った対策への移行が求められます。
まずは自社のネットワーク環境と脆弱性を正確に可視化し、優先度をつけた対策を実施することが第一歩です。そして、導入後も継続的な監視と見直しを行い、安全なネットワーク環境を維持していきましょう。
セキュリティソリューションプロダクトマネージャー OEMメーカーの海外営業として10年間勤務の後、2001年三和コムテックに入社。
新規事業(WEBセキュリティ ビジネス)のきっかけとなる、自動脆弱性診断サービスを立ち上げ(2004年)から一環して、営業・企画面にて参画。 2009年に他の3社と中心になり、たち上げたJCDSC(日本カードセキュリティ協議会 / 会員企業422社)にて運営委員(現在,運営委員長)として活動。PCIDSSや非保持に関するソリューションやベンダー、また関連の審査やコンサル、などの情報に明るく、要件に応じて、弊社コンサルティングサービスにも参加。2021年4月より、業界誌(月刊消費者信用)にてコラム「セキュリティ考現学」を寄稿中。
- トピックス:
- セキュリティ
- 関連トピックス:
- ネットワークセキュリティ





