近年、ますます少子高齢化が進む日本では、将来的な労働人口減少という深刻な問題がクローズアップされています。労働人口減少によって引き起こされる課題にはどんなものがあるのか、また、現状を打破するために、企業としてすぐに取り組むべき4つの対策について解説します。
労働人口減少の実態
以前から取り上げられていた日本の少子高齢化がいよいよ加速し、日本は人口減少の時代を迎えています。未婚化や晩婚化、出産年齢の高齢化、または子育て費用の負担増加などで少子化が進む一方、医療サービスの充実により平均寿命が延び、高齢化が進んでいます。出生者数が死亡者数を下回る状況が続くと、人口の減少は避けられません。
日本の総人口は2008年をピークに減少に転じ、人口減少の時代に突入しました。国立社会保障・人口問題研究所によれば、この状態が続けば2050年には日本の総人口は1億人を下回ると予測されています。年代別の人口構成も変化し、すでに1997年には65歳以上の高齢者人口が、14歳未満の子どもの人口を上回りました。高齢者人口は2017年には3,515万人に達し、総人口に占める割合は27.7%と増え続け、超高齢化社会が加速しています。
出生率の低下により15歳から64歳までの生産年齢人口も減少し、2017年には7,596万人で総人口に占める割合は60%でしたが、2040年には5,978万人となり、53.9%まで割合が低下すると予測されます。人口の急減や超高齢化の傾向がこのまま続くと、労働力人口は加速度的に減少の一途をたどるでしょう。内閣府が公表している資料によれば、2060年には働く人と支える人の割合が逆転するとされます。
労働力人口と生産年齢人口の違い
「労働力人口」と「生産年齢人口」は混同されがちですが、定義が異なります。労働力人口は15歳以上の就業者数と、失業していても働く意欲がある完全失業者数を合わせた人口総数で、年齢の上限はありません。就業者は調査中に報酬を得る仕事に1時間以上従事した人で、パートやアルバイト、勤労学生、一時的な休業者も含まれます。労働力人口は労働する能力と意思を持つ人口総数と言えます。
一方の生産年齢人口は、労働に従事できる年齢の人口層を指す経済学用語です。15歳以上65歳未満と年齢の上限があり、働く意思は問いません。ただ、年齢的には国内の生産活動において中核の労働力となる層です。労働市場を考えると、生産年齢人口の減少は労働力人口の減少よりも将来的なインパクトは大きくなります。
しかも国立社会保障・人口問題研究所によれば、生産年齢人口は総人口よりもはるかに速いペースで減少すると推計されています。2060年の総人口は8,674万人と2010年比較で32.3%の減少に対し、生産年齢人口は4,418万人と2010年比較で45.9%まで減少すると見込まれているのです。生産年齢人口の減少は少子高齢化に加え、これまでもっとも人口の割合を占めていた団塊世代が現役を引退することも要因に挙げられます。
労働人口減少による3つの課題
労働人口減少は労働力の不足だけでなく、さまざまな経済・社会保障の問題に発展すると危惧されています。ここでは、経済に関する3つの課題について解説します。
人手不足
労働人口減少で起きるもっとも直接的な課題は人手不足で、長期的には労働人口減少が進むため、人手不足がより深刻化します。一方でこのところ、潜在的な労働力である女性や高齢者の就労率が上昇したため、2023年まで労働力人口は増える見込みです。しかし、その後は女性や高齢者の就労率がさらに上がったとしても、労働人口減少に歯止めがかからなくなります。
2030年には総人口が約1億1,900万人に減少し、65歳以上の高齢者人口が約3,716万人に増加すると予測されます。日本の総人口の1/3が高齢者になり、労働人口が大幅に減少すると危惧されているのが2030年問題です。シンクタンクのパーソル総合研究所が発表した「労働市場の未来推計2030」によれば、644万人の人手不足が起きることがわかっています。現在すでに医療や介護、観光、IT業界の人手不足や、航空業界のパイロット不足などが深刻化していますが、今後はサービス業も大きな不足が予測されます。
経済規模の縮小
労働人口減少によって労働市場が縮小し、経済規模も縮小を余儀なくされ、直接的ではないものの、結果的にはGDP(国内総生産)が下がります。労働人口は稼ぎ手として生産活動を支えていると同時に、消費活動も担っています。労働人口減少により国内需要が見込めないとなれば、企業も新規の投資を控えるため、経済成長が難しくなり、日本の経済活動の鈍化は避けられません。
GDPが下がれば、税収も減少するため、国民の生活を支える社会保障システムが危うくなります。現在の健康保険制度は、自己負担が1~3割で、残りを国が負担していますが、税収が下がると健康保険制度の維持が難しくなります。また、年金制度は現役世代から徴収した保険料が高齢者に年金として支給される賦課方式です。支え手が減少する一方、受給者は増加するため、予算がひっ迫します。支給額の減額や受給開始年齢の引き上げが想定され、高齢者の生活は苦しくなり、将来の生活不安は増すでしょう。
国際競争力の低下
国内の経済規模が縮小すると、海外からは投資先としての魅力が低下し、人材の集積や交流によるイノベーションが起こりにくくなり、国際競争力の低下を招くおそれがあります。
スイスに拠点を置く企業の幹部向けビジネススクール、IMD(国際経営開発研究所)が毎年作成する「世界競争力年鑑2020」によれば、日本の国際競争力は63ヶ国(地域)中34位と、前年の30位より順位を下げ、すでに下落傾向が強まっています。各種統計データと経営者層へのアンケート結果から順位を決定しており、日本はとりわけ「ビジネス効率性」の低さが顕著です。2015年以降大幅に下落し、日本の総合順位が低迷している要因となっています。
現状打破の切り札である働き方改革
国内の労働人口減少に歯止めがかからない現状を打破する切り札として、政府は「一億総活躍社会」というスローガンを掲げ、「働き方改革」を推進しています。働く人々がそれぞれの事情に応じ、多様で柔軟な働きを自分で選べるようにする改革です。労働市場に参加していない女性の活躍や高齢者の雇用を促進し、外国人労働者の活用など、これまで以上に多種多様な人材が社会で活躍できる働き方を後押しします。
しかし、前述した通り、女性や高齢者の就労者を増やし、潜在的な労働力を発掘しても労働人口減少への効果は限定的です。生産年齢人口を増やすために欠かせない出生率の上昇も当面は見込めません。仮に出生率を改善できたとしても、効果が得られるのはまだ先になります。労働力と国際競争力を強化するため、企業に残された取るべき対策は「生産性の向上」です。限られた人数でいかに最大限の業務を遂行できるか、また新たに価値を創造していけるかという視点で、業務を効率化していくことが重要です。
生産性向上のために企業が取り組むべき4つの対策
ここからは、生産性向上のために企業が着手すべき4つの対策について説明していきます。
長時間労働の解消
長時間労働の抑制は「働き方改革関連法」でも重視され、残業時間の上限設定や労働時間の管理、有給休暇取得などを企業に義務化する内容が法制化されています。長時間労働を見直し、労働時間を短縮すると労働者の健康を守れます。仕事にメリハリが生まれ、集中力が向上するため、生産性向上に効果的です。
具体的な対策としては、ノー残業デーや残業の事前承認制を導入すると残業時間を抑制できます。仕事を探していても、残業や休日出勤が多く休みが取りにくい職場では働きたくないという労働者は少なくありません。特に中小企業は大企業に比べて長時間労働にルーズなイメージがあり、敬遠されがちです。長時間労働を是正することで採用率アップにもつながります。
ワークライフバランスの支援
労働力不足を招かないためには、今働いている人材を極力流出させないという視点も重要です。子育てや介護など家庭の事情で辞めてしまわないように、仕事と家庭との両立を図り、自己啓発なども可能となるよう、社員のワークライフバランスを支援します。社員に長く働いてもらえる環境を整備すれば、有能な人材を長期に定着させることにつながります。結果として企業経営の効率性を高めることが可能になるのです。
具体的な対策としては短時間勤務や短時間正社員、フレックス勤務、サテライトや在宅勤務などのテレワーク、リフレッシュのための長期休暇制度などが挙げられます。
業務効率化
短時間勤務や在宅勤務などを実現していくには、業務効率化を図り、生産性を上げていくことが大切です。業務効率化のポイントは「作業」「時間」「コスト」の無駄を減らすことです。効率化の大きな流れとしてITツールの活用と外注化が挙げられます。ITツールに合わせて業務を見直し、外注によって固定費を柔軟に変動させます。
具体的にはITツールによるペーパーレス化やWeb会議システムの導入、クラウドの活用などです。中小企業の規模であれば、社員のリソースは本業に注力し、定型業務は外注化した方がより効率的な企業経営を実現できる場合もあります。
AIやIoTの活用
さらに労働力不足を解消するには労働ニーズそのものを減らす視点が必要です。定型業務や単調な長時間作業などをAIやRPAの自動化ツールに移行し、社員をより重要な作業に配置する取り組みは、銀行や流通業者、通販業者、コールセンターなど各業界で実施されています。
AIやRPAの活用は労働を省力化する生産性の向上だけでなく、作業を覚えるための育成コストを削減し、過酷な労働から解放するというメリットがあります。また、自動化により作業ミスを防ぎ、精度を向上させることも可能です。
まとめ
日本の労働人口減少が進むのは、既定の事実と言えます。労働人口減少は企業にとって大きなピンチですが、業務への発想を変えれば、人材活用の柔軟性を高めるチャンスでもあります。危機的な状況となる前に取り組める対策に着手し、労働力人口減少の変化に立ち向かえる企業に変革していくことが必要です。
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