ソフトウェアの透明性とセキュリティを向上させるために、SBOMの導入が重要視されています。
本記事では、SBOMを効果的に導入・運用するための具体的な手順の他、選定すべきツールやフォーマットについて詳しく解説します。SBOMを最大限に活用するためのポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
SBOMとは
SBOM(Software Bill of Materials)とは、ソフトウェアプロジェクトの構成要素の可視化・透明性をもたらす文書です。これは、ソフトウェアのコンポーネントやその依存関係を一覧化し、理解しやすくするためのものです。
SBOMは、以下の情報から構成されます。
DataFields
ソフトウェアを構成するソフトウェア部品に関する情報で、部品ごとにサプライヤー名や名称、バージョン、依存関係といった情報が含まれます。
Automation Support
品質管理やセキュリティ管理を自動化するためのサポート機能を提供します。SBOMツールは、この情報をもとに自動的に最新のコンポーネント情報を取得し、ソフトウェアが最新かつ安全な状態であることを保証するために、開発者や運用チームに警告を発することが可能です。
Practices and Processes
コンポーネントを適切に管理するための項目を提供します。ソフトウェアの開発からリリース、保守に至るまでのプロセスを記載することで、セキュリティや品質管理を確実に行い、コンプライアンスを維持することにつながります。
SBOMが注目されるようになった理由
SBOMが注目されるようになった背景には、DXの推進に伴うソフトウェア産業の急激な拡大や、高度なセキュリティ攻撃などが挙げられます。
ここでは、SBOMが注目されてきた背景について解説します。
ソフトウェアサプライチェーン攻撃の増加
サイバー攻撃は年々複雑化かつ増加しており、特にソフトウェアサプライチェーン攻撃が急増しています。悪意のある攻撃者は、ソフトウェアの開発や配布プロセスに介入し、悪意あるコードを組み込むことで、幅広い影響を与えています。
ソフトウェアサプライチェーン攻撃に対抗するためには、利用しているソフトウェアの部品(ライブラリやミドルウェア)に脆弱性がないかを確認し、いち早く対応することが不可欠です。
SBOMを利用することで使用されるソフトウェア部品の透明性が確保され、脆弱性や悪意あるコードの早期発見が可能になります。特に、2022年に起きたSolarWindsへのサイバー攻撃や、2021年に起きたLog4jの脆弱性の発覚などを背景に、SBOMの必要性はより一層認識されるようになりました。
アメリカ大統領による対策強化(2021年)
2021年、アメリカのバイデン大統領は、サイバーセキュリティ強化のための大統領命令を発表しました。この命令では、SBOMの作成が重要な要件の1つとして挙げられ、連邦政府のソフトウェア供給業者に対して、SBOMの提出を求めるようになりました。すなわち、アメリカではSBOMの作成が義務づけられた、ということです。
この動きは、ソフトウェアの透明性と信頼性を確保するための一環であり、企業や開発者が自社のソフトウェアのセキュリティ状態を把握するための標準的な手段として、SBOMの採用が進んでいます。アメリカでのこの動きは、後述する日本の活動への後押しにもなっています。
経済産業省による推進活動(2023年)
2023年、日本の経済産業省は、国内企業のサイバーセキュリティ向上を目指し、SBOMの普及促進に取り組み始めました。2024年8月には、SBOMの導入に関する手引きの第二版が公開されており、手引きにはSBOM導入に関する具体的な手順も含まれています。これにより、サプライチェーン全体でのソフトウェア部品の可視化とリスク管理強化が期待されています。
なお、この活動は大手ITベンダーだけでなく、中小企業も対象です。日本国内で開発される全てのソフトウェアに対してSBOMの導入を推奨し、サプライチェーン全体のセキュリティ強化を図る活動が実施されています。
政府と産業界が一体となって取り組むことで、日本の産業基盤の安全性が高まることが期待されます。
EUでのサイバーレジリエンス法発効(2024年)
2024年3月に欧州会議で可決され、同年内に施行されるEUのサイバーレジリエンス法は、SBOMの重要性をさらに強調しています。
この法律で求められているものは、製品のライフサイクル全体にわたるセキュリティを考慮した開発や管理です。サイバーレジリエンス法には「サイバーセキュリティリスクについて文書化する」ことが明記されており、その文書の中には「SBOMの提出」が含まれています。つまり、EUにおいてもSBOMの作成及び提出が義務付けられる、ということです。
この法令により、欧州全体でのサイバーセキュリティ基準が統一され、企業はより高いレベルの透明性とセキュリティ対策を求められるようになります。セキュリティ対策の一環として、SBOMが注目されています。
SBOMの重要性
SBOMは、ソフトウェアプロジェクトの透明性を高め、セキュリティの向上に寄与します。特に以下の点で重要です。
- セキュリティ脆弱性の早期発見と修正
- コンプライアンスの確保
- サプライチェーンのトラストの確立
- 品質の管理と改善
セキュリティ脆弱性の早期発見と修正
SBOMを作成することで、使用しているソフトウェアに含まれる部品や依存関係が可視化されます。もし、利用しているソフトウェア部品に脆弱性が見つかった場合、SBOMに記載されたリストから脆弱性が存在する部品を早期に発見しやすくなります。早期に発見し対策することで、潜在的なセキュリティリスクを未然に防ぎ、攻撃の対象になる前に迅速に対応することが可能です。
少しでも早く発見することで迅速な修正対応が可能となることは、開発者としてもメリットといえるでしょう。
コンプライアンスの確保
近年、企業はソフトウェアに関する規制や標準への適合が求められています。
OSS(オープンソースソフトウェア)として公開されているソフトウェア部品にはライセンスが設定されており、「コピーレフト」という考え方が適用されている場合があります。例えば、GPLライセンスのOSSを利用する場合、利用しているソフトウェアのソースコードを開示する必要が発生します。ソースコードを開示しない場合、ライセンス違反となるため注意が必要です。
SBOMを導入することで、使用するソフトウェアがどのようなライセンス条件下にあるのかを明確に把握でき、違反リスクを低減できます。特にOSSのライセンス管理が容易になるため、コンプライアンス遵守のための工数が大幅に削減されます。
サプライチェーンのトラストの確立
SBOMはサプライチェーンにおける透明性を確保するツールとして機能します。例えば、複数のベンダーが関与する開発プロジェクトでは、各ベンダーが提供するソフトウェアの信頼性や安全性が保証されなければなりません。SBOMを利用することで、全てのソフトウェア部品がセキュリティ基準を満たしていることが確認でき、サプライチェーン全体でのリスクが軽減されます。
さらに、サプライチェーン全体でのトラストが確立されることで、サイバー攻撃や供給の途絶などのリスクに迅速に対応できる体制が整います。サプライチェーン全体の可視性が高まることで、問題発生時にはどの部分に脆弱性があるかを特定し、素早い対応が可能になるでしょう。
品質の管理と改善
SBOMは、ソフトウェアの品質管理において非常に有用なツールです。SBOMにはソフトウェアに使用されている全ての部品(となるソフトウェア)が記載されているため、ソフトウェアに不具合があった場合にどの部品に問題があるのかを素早く特定できます。特に、大規模なソフトウェアプロジェクトでは、複数の部品が連動しているため、SBOMを活用することで品質管理が効率化されるのです。
また、SBOMは開発プロセスの改善にも寄与します。部品ごとの性能や安定性をモニタリングすることで、開発段階での利用可否の判断が可能になります。これにより、ソフトウェアの品質の向上が期待できるでしょう。また、過去のバージョンとの比較や改良点の評価も容易になり、プロジェクト全体のパフォーマンスと信頼性が向上します。これらにより、ソフトウェア製品の長期的な品質向上と競争力強化につながるでしょう。
SBOMの利用シーン例
SBOMは、ソフトウェア開発や運用のあらゆる局面で、その利便性と効果を発揮します。ソフトウェアの透明性を確保し、セキュリティやコンプライアンスのリスクを軽減するためのツールとして、SBOMの使用は増え続けています。ここでは、SBOMの具体的な利用シーンを詳しく見ていきましょう。
ソフトウェアの提供
ソフトウェアの開発者やベンダーにとって、SBOMは顧客に対して自社製品の透明性と信頼性を保証するための重要なツールです。ソフトウェアの全ての部品やライブラリを正確に把握し、SBOMとして提供することで、顧客は使用するソフトウェアがどのような技術的要素で構成され、どのようなリスクがあるかを把握できます。これにより、セキュリティリスクの低減やコンプライアンスの確認が容易になります。
特に、BtoBのビジネスにおいては、今後SBOMの提供が取引の安全性を保証するものとして、重要視されるようになるでしょう。各国でのSBOMの導入が活発になることを鑑みると、「SBOMの提出がない場合、契約が成立しない」可能性も考えられます。
ソフトウェアの選定
ソフトウェアを導入する際にもSBOMの活用が可能です。
導入予定のソフトウェアを選定する際にSBOMを活用することで、リスクを事前に評価できます。SBOMには、使用されているライブラリやフレームワーク、依存関係の詳細な情報が含まれており、これによりセキュリティ脆弱性やコンプライアンス違反のリスクを事前に特定することが可能です。特に、脆弱性が過去に報告されている部品が含まれている場合、それを導入前に検出できるので、導入可否の判断材料とできます。これにより、リスク回避につながります。
ソフトウェアの運用
運用段階でもSBOMは非常に重要な役割を果たします。運用中のソフトウェアに脆弱性やバグが発見された場合、SBOMを参照することで、問題がどの部品に起因しているのかを迅速に特定できます。これにより、問題の解決までの時間を大幅に短縮し、システムのダウンタイムを最小限に抑えることが可能です。
特に、企業のIT部門では、複数のサードパーティ製ソフトウェアやオープンソースライブラリを組み合わせて運用することが多いため、個々の部品を効率よく管理するためにもSBOMは有用です。また、セキュリティインシデントが発生した際にも、SBOMによって迅速に脆弱な箇所を特定し、対策を講じることで、被害を最小限に抑えられます。
SBOMの導入で削減できる工数
SBOMを導入することで発生するメリットも大きい反面、「開発に対する工数が増えるのではないか?」と心配になる方もいるのではないでしょうか。
SBOMを導入・運用するために発生する工数は一定数存在しますが、1度導入してしまえば、その後に発生するさまざまな工数削減に寄与します。まず、SBOMはソフトウェアの部品や依存関係を明確に可視化するため、セキュリティリスクの特定や脆弱性の対応が迅速に行えます。これにより、手動で行う調査や対応にかかる時間を大幅に削減可能です。また、SBOMを活用することで、オープンソースソフトウェアのライセンス管理が自動化され、法的コンプライアンスの確認に要する工数も削減されます。
経済産業省の発表した資料によると、「SBOM を活用した場合に要する工数が、手動での脆弱性管理と比較して30%程度に削減された」とされています。
引用:経済産業省 「ソフトウェア管理に向けたSBOM(Software Bill of Materials)の導入に関する手引 Ver.2.0」 P14
経済産業省によるSBOM導入の手引ver2.0
日本国内におけるSBOM(ソフトウェア部品表)の普及を促進するため、経済産業省は「SBOMの導入に関する手引 Ver.1.0」を2023年に発表し、2024年8月にはその改訂版であるVer.2.0が公開されました。この手引きは、企業がSBOMを効果的に導入するためのガイドラインとして機能し、セキュリティ管理の強化と取引の透明性を確保するための具体的なプロセスやモデルが新たに追加されています。
出典:「ソフトウェア管理に向けたSBOM(Software Bill of Materials)の導入に関する手引 Ver.2.0」(経済産業省 )
ここでは、Ver.2.0の主要な改訂点について紹介します。
1.脆弱性管理プロセスの具体化
SBOM導入の第一歩が、ソフトウェアに含まれる部品やライブラリの脆弱性を管理するプロセスの明確化です。
Ver.2.0では、各企業への導入をさらに促進するため、企業がどのようにして脆弱性を発見し、適切に対応するかの具体的なプロセスが記述されています。本項目を参考にすることで、脆弱性が発見された際の初動対応や、問題解決までのフローをスムーズに実行できる体制が整います。
さらにこの手引きでは、脆弱性情報を効率的に収集するための手法や、脆弱性が発見された部品がソフトウェア全体にどのような影響を与えるかを評価するためのガイドラインも提供されています。これにより、企業はセキュリティインシデント発生時のリスクを迅速に評価し、迅速に必要な修正作業ができます。
2.「SBOM対応モデル」の追加
SBOMの普及を促進するために、Ver.2.0では新たに「SBOM対応モデル」が追加されました。このモデルは、企業が自社の開発環境や業務プロセスに応じてSBOMを導入するための最適な手順を示しており、中小企業でも無理なくSBOMを導入できるように設計されています。具体的な導入手順や、他企業での成功事例が含まれているため、初めてSBOMを導入する企業にとっても参考にしやすい内容です。
「SBOM対応モデル」は、企業の規模や業種に応じて柔軟に適用できるため、サイバーセキュリティのリスクを効果的に管理しつつ、最小限のコストで導入が可能です。大企業だけでなく、中小企業もこのモデルを活用することで、ソフトウェアの透明性と安全性を確保し、サプライチェーン全体でのリスクを低減できるでしょう。
3.「SBOM取引モデル」の追加
Ver.2.0では、SBOMを活用した取引モデルである「SBOM取引モデル」も新たに導入されました。このモデルは前述のSBOM対応モデルと対になっており、ソフトウェアのサプライチェーン全体においてSBOMを共有し、サプライヤーや顧客との間でソフトウェアの透明性を確保するための考え方や手順が記載されています。
このモデルは、ソフトウェアの提供者と利用者の間で、SBOMを取引に組み込む具体的なフローを示しており、SBOMの提供と確認のプロセスが明確化されています。これにより、サプライチェーン全体でのセキュリティ基準の統一が促進され、取引が円滑かつ安全に行われることが期待できます。
特にサイバーセキュリティを強化するための業界標準や規制への準拠が求められる分野においては、SBOM対応モデルと取引モデルの存在は大きな役割を果たすでしょう。
SBOM導入の手順
SBOMを導入しようと考えた際に、どのような手順で進めればよいのでしょうか。ここからは、実際に企業でSBOMを導入する手順を紹介します。
1.SBOMツールを選定する
まずはじめに実施するのが「ツールの選定」です。
SBOMを生成するツールは多く存在し、それぞれが異なる特徴を持っています。例えば、OSSの依存関係を自動的に解析するツールや、商用ソフトウェアのライセンスに関する情報を収集するものなどがあります。選定に際しては、プロジェクトの規模、使用している技術スタック、必要な機能(脆弱性検出、ライセンス管理など)を考慮に入れる必要があると考えましょう。
また、SBOMの標準形式であるSPDXやCycloneDXに対応したツールを選ぶことで、より柔軟に他のツールやシステムとの連携が可能です。
自社の状況や使い方に応じた適切なツールを選択することで、導入もスムーズに進行し、効率的にSBOMを運用・管理できるようになります。企業のリソースや予算も考慮しながら、最適なツールを選ぶことが重要です。
2.コンポーネントの解析を行う
ツールを選定した後は、プロジェクトで使用しているソフトウェアコンポーネントを実際に解析します。アプリケーションに含まれている全てのソフトウェア部品をリストアップし、各部品のバージョン、ライセンス、依存関係、既知の脆弱性を特定します。なお、コンポーネントの解析には、手動での確認だけでなく、自動解析ツールも活用することで漏れなく診断が可能です。
解析作業により、ソフトウェアがどのような外部ライブラリやパッケージに依存しているかを把握することで、セキュリティリスクやライセンスの適合性を確認できます。特にOSSを使用している場合、そのライセンス条件や脆弱性に注意が必要です。コンポーネントを解析した結果ソフトウェアの部品が可視化されるので、これで次のSBOM作成に必要なデータが整います。
3.SBOMを作成する
SBOMを作成するためには、プロジェクトに使用されている各ソフトウェアコンポーネントとそのバージョンを文書にまとめます。以下は、HTMLでの基本的なSBOMの作成例です。
<html>
<head>
<title>My Software Project</title>
</head>
<body>
<h1>Software Components</h1>
<ul>
<li>Component A v1.0</li>
<li>Component B v2.5</li>
<li>Component C v3.2</li>
</ul>
</body>
</html>
SBOMはツールで出力できるものや規格なども存在します。その辺りはまた別の記事で解説しましょう。
SBOMを運用する
SBOMは作成して終わりではなく、その運用も重要です。
単にSBOMを作成するだけでなく、定期的に更新し、脆弱性やライセンス違反のリスクに対応するための仕組みを維持します。
具体的には、以下のような運用を実施します。
- 新しいバージョンや依存関係の変更がある場合にSBOMを更新する
- 定期的に脆弱性スキャンを実施し、SBOMで把握しているコンポーネントに問題がないか確認する
- 取引先や顧客にSBOMを提供する
特に、SBOMを定期的に確認し、必要に応じて更新することが重要です。ソフトウェア開発では、ライブラリやコンポーネントが頻繁にアップデートされるため、SBOMの内容もその都度更新する必要があります。
セキュリティの観点からも、SBOMを正しく運用し続ける必要があることを忘れないようにしましょう。
SBOMツールを選定する際に見るべきポイント
SBOMツールを選定する際には、目的や企業の環境に合わせたツールを選ぶことが重要です。ここでは、選定の際に特に注目すべきポイントについて解説します。
機能性・性能性
SBOMツールの機能と性能は、ツールの選定において最も重要な要素の1つです。
「ソフトウェアのコンポーネントを正確に解析し、依存関係や脆弱性を迅速に特定できるか」という基本的な機能はもちろんのこと、「大量のデータを扱う際の処理速度」なども性能に含まれます。大企業の場合は多くのソフトウェアを利用していることが多いため、この処理性能が重要になる場合があります。
また、サイバー攻撃のリスクが高まる中、脆弱性管理機能が強力なツールを選ぶことで、セキュリティ面の強化が可能になります。これらの機能や性能を見比べてツールを選定しましょう。
自社や導入目的との合致
SBOMツールにはそれぞれの特徴があり、ツールを提供しているベンダー各社にも細かい機能に対する強みはさまざまです。そのため、ツールが提供する機能が自社のニーズに合致しているかを確認する必要があります。
SBOMを導入する目的として、セキュリティ強化、コンプライアンス対応、ライセンス管理のどれに重きを置くかによって、適切なツールが変わる場合があります。また、業種や業界ごとの要件も異なるため、必要な機能を提供できるツールを選定しましょう。自社の既存の開発フローや運用体制との整合性も重要ですので、導入から運用までを見据えて選定を進めてください。
導入費用
SBOMツールには無料のものも一部存在しますが、高機能なツールは有償で提供されています。そのため、企業の規模や予算に応じて慎重に検討しましょう。
ツールの初期導入コストだけでなく、運用やメンテナンスにかかるコストも考慮する必要があります。無料で提供されているオープンソースのSBOMツールもありますが、商用ツールに比べてサポートがなく、限定的な機能のみが提供されているため、手作業で実施する範囲が広くなりがちです。
導入するツールの料金だけでなく、運用に関するヒューマンリソースも踏まえた上で、費用対効果の高いツールを選定しましょう。
他ツールとの連携性
特にソフトウェアを開発する場合、SBOMツールが他のセキュリティツールや開発ツールと連携できるかどうかも確認すべき点の1つです。
セキュリティスキャンツールやCI/CDパイプラインとの統合により、効率的な脆弱性管理や自動化が可能なツールも存在します。すでに自社で導入しているツールと連携できるツールを選定すれば、導入時の負荷も低く、開発効率の向上にもつながります。
また、SPDXやCycloneDXなどの標準フォーマットに対応しているツールを選ぶことで、他のシステムとのデータ互換性が高まり、運用の柔軟性も向上します。
運用しやすさ
SBOMツールは、長期的に運用することを前提としています。そのため、ツールの使いやすさや操作性も重要な要素といえるでしょう。
扱いやすい直感的なUI/UXを持ち、メンテナンスが容易であるツールを選ぶことで、日常的な運用がスムーズに進められます。また、ツールを運用するにあたって、手作業が多くなるようなツールも避けるべきです。パイプラインや脆弱性診断ツールなどとの連携をうまく活用し自動化するような仕組みを構築することをおすすめします。自動化により、誤検知や検知漏れといったヒューマンエラーが抑えられるでしょう。
サポート体制
導入時や、導入後のサポート体制も選定の際の重要なポイントです。
はじめてのツール導入の際に、導入の進行が遅れてしまったり、うまく運用が開始できずに形骸化したり、というパターンも考えられます。サポート体制が整っているツールを選べば、導入時や運用中のリスクを軽減し、スムーズな運用スタートが可能です。
特に商用ツールを選ぶ場合、技術的なトラブルが発生した際の迅速な対応や、定期的なアップデートが提供されるかどうかを確認します。また、ツールの導入時や運用に関するトレーニングの提供や、導入支援サービスがあるかも考慮に入れるとよいでしょう。
よく使われるSBOMのフォーマット
SBOMのフォーマットには複数の標準があり、それぞれが異なる特徴を持っています。
ここでは、代表的なフォーマットを3つ紹介します。
SPDX
SPDX(Software Package Data Exchange)は、Linux Foundationによって開発された、ソフトウェアのライセンス情報を中心に管理するための標準フォーマットです。ISO標準(ISO/IEC 5962)としても認定され、企業がソフトウェアコンプライアンスを確保するために幅広く使用されています。SPDXはソフトウェアの部品リストをはじめ、依存関係やライセンスに関する詳細な情報の記載が可能で、企業が使用するOSSが適切にライセンスされていることを確認するために使用されるものです。
また、SPDXは法的トラブルを避けるための重要な役割を果たし、ソフトウェアのコンプライアンス監査を容易にすることから、特にライセンスの遵守が重要視される業界での採用が進んでいます。
SPDXは詳細なライセンス情報やコンプライアンス情報を記載します。一方で小規模プロジェクトなどの場合「詳細な情報が不要だが、SBOMを作成したい」ニーズに対してSPDXの簡易版であるSPDX Liteを利用可能です。
CycloneDX
CycloneDXはOWASPが開発したSBOMフォーマットで、特にセキュリティに特化しています。SPDXと同様に、ソフトウェアのコンポーネントリストや依存関係を管理しますが、脆弱性情報の追跡やリスク管理に優れている点が特徴です。CycloneDXは、依存関係の脆弱性を早期に発見し、セキュリティリスクを低減するための機能を提供します。そのため、セキュリティ意識の高い企業や、サイバー攻撃のリスクが大きい産業に適しています。
特に、ソフトウェアが頻繁にアップデートされる環境では、CycloneDXを使用することで脆弱性をリアルタイムで監視し、即座に対応することが可能です。セキュリティに関する監視機能が強化されているため、ソフトウェアサプライチェーン全体のリスク管理がより効率的に行えます。
SWIDタグ
SWID(Software Identification)タグは、ISO/IEC 19770-2で規定されているソフトウェア資産管理(SAM)向けのフォーマットです。SWIDタグは、ソフトウェアがインストールされた時点で自動的に生成され、ソフトウェアのバージョン、ライセンス情報、製造元に関する詳細が記録されます。主にエンタープライズ環境で利用され、ソフトウェア資産の全体像を把握し、ライセンス管理やコンプライアンスチェックを効率化するために役立ちます。
SWIDタグは特に大規模なソフトウェア環境において、ソフトウェア資産の正確なインベントリ作成や、ライセンス監査への対応をサポートします。また、ソフトウェアのアップデート時に自動で情報が更新されるため、社内の資産管理に活用できるフォーマットといえるでしょう。
SBOMを導入する際の注意点
SBOMを導入する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを意識することで、導入の成功率向上や運用効率アップにも寄与しますので、導入の際の参考にしてください。
出力フォーマットを事前に確認する
SBOMツールを選定する際に、どのフォーマットでSBOMが出力されるかを事前に確認することが重要です。前述のとおり、代表的なフォーマットでもSPDXやCycloneDX、SWIDという3つのフォーマットが存在します。これらの標準フォーマットに対応しているかを確認することで、他のツールやシステムとの互換性を確保しやすくなります。
ツール間で異なるフォーマットを使用していると、データの統合や共有に問題が発生する可能性があるため、SBOMツールだけでなく、その結果を利用する他のツールで利用可能なフォーマットの対応状況をあらかじめ確認しましょう。
顧客や協業企業と記載項目を調整する
SBOMを導入し運用を進める上では、自社内でのみの利用だけでなく、顧客へのSBOM提供や、協業企業からSBOMの提供を受けることも加味しましょう。
SBOMを受け渡しする際には、顧客や協業企業とどの項目をSBOMに記載するかを調整する必要があります。SBOMにはソフトウェアの詳細な部品リストやライセンス情報が含まれるため、項目によっては公表できない、というパターンも考えられます。取引先との間でSBOMを共有する際には、必要な情報のみを開示しつつ、セキュリティと透明性とのバランスが必要です。機密性の高い情報をどの程度公開するかを事前に決定しておく必要がある、と考えるとよいでしょう。
作業を一部自動化する
手動でのSBOMの作成や更新作業は時間と労力がかかるため、ツールを使っての自動化が推奨されます。
ソフトウェアのバージョン更新や依存関係の変更に応じて、SBOMを自動的に更新できる機能を持つツールを使用するとよいでしょう。特に自社でソフトウェアを開発している場合には、パイプラインや脆弱性診断ツールと連携させ、常に最新のSBOMが生成されるような仕組みをつくることで作業負荷を軽減し、正確なSBOMの維持が可能になります。
自動化によって工数の削減だけでなく誤操作や作業漏れも防止できるため、セキュリティリスクの迅速な対応やコンプライアンスの遵守が容易になります。
SBOM導入に関するこれから
アメリカやEUでの義務化が本格化することで、今後日本でもSBOMの提供が推奨、または義務化される可能性は高いといえます。
特に、アメリカ国内でのSBOM提供の義務化は日本でも大きな影響を与える可能性が高いです。日本国内でもMicrosoft 365やSalesforce、SAPといったパッケージ製品をカスタマイズして活用する事例が多く存在します。これらのサービスと組み合わせて利用する場合には、アメリカの基準に合わせ、SBOMの提供が推奨、または義務化の可能性があります。
2024年現在、日本ではSBOMの提供は義務付けられておらず、経済産業省による導入推奨に留まっています。各国の情勢や業界全体の動きを注視しつつ、今後の対応を進めていく必要があるでしょう。
SBOM対策ならSCTのLabrador Labsを
SBOM対策を今からはじめるのであれば、三和コムテックのLabrador Labsがおすすめです。
Labrador Labsは、OSSの利用に伴うセキュリティリスク、ライセンスリスク、および運用リスクを軽減するためのSBOM管理ツールです。
直感的なインターフェースを提供しており、開発者でなくても容易に利用できます。
また、標準フォーマットであるSPDXとCycloneDXに対応しているため、他のツールとの連携も可能です。
企業規模や使用頻度、使用形態に応じて適切なサービスを提供しますので、SBOM対策に悩んだ際には以下よりお問い合わせください。
SBOM対策
まとめ
SBOMはソフトウェア開発プロセスの重要な側面であり、透明性とセキュリティの向上に寄与します。プロジェクトにおいてSBOMを活用することで、信頼性の高いソフトウェアの開発が可能となります。
セキュリティ対策に関する工数削減やコンプライアンス遵守の面でも、SBOMの導入は今後も進んでいくことが予測されますので、適切なツールを導入し、自社の活動に役立ててください。
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