現代社会において、企業にとって情報セキュリティ対策は最重要課題の1つです。特に、顧客情報や機密情報などの重要データを格納するデータベースは、サイバー攻撃や情報漏洩の標的となりやすいことから、適切な保護対策が不可欠です。
その中でも、近年注目を集めている保護対策が「データベース暗号化」です。データベース暗号化とは、データベースに格納されたデータを暗号化することで、不正アクセスによる情報漏えいを防ぐセキュリティ対策です。
本記事では、データベース暗号化の必要性、デメリット、効果的な運用ポイントについて解説します。
データベースの暗号化とは
データベースの暗号化とは、データベース上のデータを暗号化して、不正アクセスによる情報漏えいを防ぐセキュリティ対策です。
企業にとってセキュリティ対策は、事業継続のために必須です。サイバー攻撃は年々巧妙化・高度化しており、企業規模や業種にかかわらず、被害を受けるリスクが高まっています。特に、社内のデータベース上には機密情報がつまっているため、データベースの暗号化技術が重要視されています。
暗号化されたデータは、正当な権限を持つユーザーだけが暗号化キー(暗号鍵)を使って元のデータに戻せるため、仮にデータベースに不正アクセスされたり、端末が紛失・盗難にあったとしても、情報漏えいを防げます。
データベースの暗号化はなぜ必要なのか
データベースの暗号化が必要な理由は多くあります。具体的な理由は以下のとおりです。
- データ保護のため
顧客情報、機密データ、知的財産などを不正アクセスから守れます。万が一データが盗まれても、暗号化されていれば読み取れません。 - 法令遵守のため
企業では、機密データの保護に関する法律や規制が定められており、暗号化が義務付けられています。例えば、GDPR(一般データ保護規則)やHIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法)が該当します。 - リスク管理のため
データ侵害のリスクを軽減し、万が一のデータ漏洩時の影響を最小限に抑えられます。これにより、ビジネスの継続性を守ることが可能です。
また、近年、データベースの脆弱性をついたサイバー攻撃も増えています。サイバー攻撃を完全に防げなかった場合でも、リスクを最小限に抑えるためにデータベース暗号化は重要です。
データベースの脆弱性については、以下の記事で詳しく解説しています。
データベースが持つ脆弱性とセキュリティリスクを解説!効果的な対策も紹介
データベース暗号化の方法・種類
データベースを暗号化するための方法は、大きく分けると3種類あります。
それぞれ異なる仕組みと特徴を持つため、自社のニーズに合ったものを選択することが重要です。この3種類の方法について詳しく解説していきます。
データベースが提供する機能で暗号化
データベース暗号化は、不正アクセスやデータ漏えいを防止する技術です。データベース管理システム (DBMS) の機能や専用の暗号化ツールを用いて、格納されるデータやデータベース全体を暗号化します。
データベース暗号化により、データベースサーバーに不正アクセスされても、暗号化されたデータを閲覧することはできません。つまり、データベース暗号化は不正アクセスやデータ漏えいの効果的な対策といえます。 PCI DSSやISO 27001などのセキュリティ基準を遵守するために、データベース暗号化が求められるケースでのコンプライアンス対応も可能です。
このことから、データベース暗号化は、外部からのアクセスが多いデータベースや法規制でデータ暗号化が義務付けられている場合に利用されています。
ストレージやOSの機能で暗号化
ストレージ暗号化は、ハードディスクドライブ (HDD) やソリッドステートドライブ (SSD) などのストレージデバイスに保存されているデータを暗号化する方法です。OSやストレージデバイスの暗号化機能を利用して暗号化されます。
ストレージデバイスやノートパソコンが紛失・盗難にあっても、データが暗号化されているため、漏えいリスクを低減できます。
ノートパソコンやモバイル端末、機密性の高いデータを扱う企業やリモートアクセスを許可している環境がある企業で、ストレージ暗号化が利用されています。
暗号化アプリケーションやサービスを利用
アプリケーション暗号化は、アプリケーション内でデータを暗号化し、保存や通信を行う方法です。
暗号化ライブラリやAPIなどを利用して暗号化を実現します。アプリケーション開発時に暗号化ツールを利用したり、クラウドサービスのアプリケーション暗号化機能を利用したりする方法もあります。
データが常に暗号化されているため、たとえアプリケーションに脆弱性があっても、情報を盗み取られるリスクを低減できます。
データベースの暗号化が企業にもたらすメリット
すでに、データベースの暗号化を実施しセキュリティ強化に努めている企業も多くありますが、改めて暗号化が企業にもたらす主なメリットを解説します。
サイバー攻撃などから機密情報を守れる
データベースの暗号化は、サイバー攻撃から機密情報を守るための効果的な手段です。暗号化されたデータは、攻撃者がシステムに侵入しても解読が困難であるため、情報が流出するリスクを大幅に軽減します。特に、SQLインジェクションやマルウェア攻撃のような手法では、攻撃者がデータを直接取得することは困難です。
また、データベースの暗号化は、PCI DSSやGDPRなどのセキュリティ標準に準拠するためにも必要です。データベースの暗号化により、企業は法的なリスクを回避し、顧客の信頼を維持できます。
パソコン等の紛失・盗難時の情報漏えいを防げる
パソコンや外部ストレージデバイスの紛失・盗難は、企業にとって重大な情報漏えいのリスクを伴います。しかし、データベースが暗号化されていれば、たとえデバイスが悪意のある第三者の手に渡ったとしても、暗号化キーがなければデータの中身を解読することはほぼ不可能です。
これにより、物理的なデバイスのセキュリティに依存せずに情報の安全性を確保できます。特に、リモートワークが普及している現代では、データ暗号化は不可欠なセキュリティ対策の1つです。
人為的なミスによる情報漏えいを防げる
人為的なミスは情報漏えいの主要な原因の1つです。例えば、誤って機密データを含むファイルを不適切な場所に保存したり、意図せずに外部に送信してしまうことがあります。しかし、データベースの暗号化により、こうしたミスが発生しても、受け取った側が暗号化されたデータを解読できなければ、情報の漏えいは防げます。これにより、従業員のミスによるセキュリティリスクを大幅に低減し、組織全体の情報管理がより安全になります。
パソコンなどの処分時のセキュリティ対策ができる
パソコンやサーバーなどのデバイスを廃棄する際、内部に保存されているデータが漏えいするリスクがあります。しかし、データベースが暗号化されていれば、デバイスを物理的に破壊する前にデータが解読されることを心配する必要がありません。
例えデバイスが第三者の手に渡っても、暗号化されたデータは暗号化キーがなければ利用できないため、情報漏えいを防げます。これにより、デバイスの廃棄プロセスがより安全かつ効率的に行えるでしょう。
データベース暗号化によるデメリットと対処法
データベース暗号化は、機密情報を保護するための重要なセキュリティ対策ですが、その実装にはいくつかのデメリットも伴います。ここでは、データベース暗号化による代表的なデメリットと、その対処法について詳しく解説します。
暗号化アルゴリズムには種類があるため自社に最適なものを選ぶ
データベース暗号化にはさまざまなアルゴリズムがありますが、各アルゴリズムには異なる特性や用途があります。
- AES:米国国立標準技術研究所 (NIST) によって開発された、最も広く使われている暗号化アルゴリズム
- Blowfish:暗号化キーの長さに制限があるが、比較的処理速度が速く、AES と同等のセキュリティレベルがある
- RSA:公開鍵暗号方式の代表的なアルゴリズム。高い安全性と柔軟性を備えているが、処理速度が遅い
- ECC:RSA よりも処理速度が速く、同等のセキュリティレベル
自社のデータ保護のニーズやシステムの性能に合わせて、最適なアルゴリズムを選ぶことが重要です。選定の際には、セキュリティ専門家の意見を参考にし、パフォーマンスとセキュリティのバランスを考慮することが推奨されます。
暗号化キーを忘れるとデータを復号できないため、管理方法を徹底する
データベースの暗号化において、暗号キーの管理は非常に重要です。暗号化キーを紛失すると、データを復号できなくなるリスクがあります。そのため、暗号化キーの管理方法の徹底が求められます。キー管理システム(KMS)を導入することで、暗号化キーを安全に保管し、アクセス権限を適切に設定できます。
また、定期的にバックアップを行い、キーの更新やローテーションを実施することで、セキュリティを強化できます。さらに、キーの保管場所には物理的なセキュリティ対策を講じ、アクセスログを監視することも有効です。
暗号化の手間がかかるため既存業務に支障がない方法を選ぶ
データベースの暗号化は、導入にあたってシステムのパフォーマンスに影響を与える可能性があります。また、暗号化の手間や処理時間が増えることで、業務効率低下のリスクがあるため、既存の業務に支障がない方法を選ぶことが重要です。
例えば、データベースの一部のみを暗号化する部分暗号化を検討したり、業務のピーク時を避けてバッチ処理で暗号化を行ったりといった対策が考えられます。また、データベースの暗号化機能を提供するソフトウェア選定時には、パフォーマンスへの影響を最小限に抑えられるものを選びましょう。
アクセス制御機能はないためアクセス制御対策は別途行う
データベース暗号化はデータそのものを保護しますが、アクセス制御機能は含まれていません。そのため、不正アクセスを防ぐアクセス制御対策を別途行う必要があります。具体的には、ユーザー認証や権限管理を強化し、必要最低限のアクセス権限のみを付与することが重要です。
さらに、監査ログを活用してアクセス履歴を追跡し、不正なアクセスに迅速に対応できる体制を整えることが求められます。また、定期的にアクセス権限を見直し、不要な権限を削除することもセキュリティ強化に役立ちます。
運用や管理のコストが嵩みやすいため暗号化の対象を絞ったりポリシーを設定したりする
データベースの暗号化には、運用や管理のコストが嵩むというデメリットがあります。全てのデータを暗号化すると、その管理にかかる手間やコストが大幅に増加するため、暗号化の対象を絞ることが効果的です。例えば、特に機密性の高いデータのみを暗号化し、一般的なデータは別の保護手段を用いるなどの対策が考えられます。
また、暗号化に関するポリシーを設定し、どのデータをどのように暗号化するかを明確にすることで、運用コストを最適化できます。さらに、定期的にポリシーを見直し、最新のセキュリティ要件に対応することが重要です。
データベースの暗号化の注意ポイント
データベース暗号化の実施にあたっては、いくつかの注意点があります。適切な暗号化戦略を立てることで、データの機密性を維持しながら、システムのパフォーマンスやユーザビリティを保つことが可能です。ここでは、データベースの暗号化における重要な注意ポイントについて解説します。
ユーザーの負担軽減を考慮
データベース暗号化の導入時には、ユーザーの負担軽減が重要です。暗号化により、システムの応答速度の低下や、ユーザーの操作が煩雑になることを避けるため、適切な対策を講じる必要があります。例えば、暗号化のプロセスをバックグラウンドで実行する、暗号化されたデータへのアクセスをスムーズに行えるUIを開発するなどの工夫が考えられます。
さらに、ユーザー教育を通じて、暗号化の重要性や正しい利用方法を周知することも有効です。これにより、ユーザーがストレスなくシステムを利用できる環境を整えましょう。
ネットワークやバックアップデータも暗号化
データベースの暗号化に加え、ネットワーク通信やバックアップデータの暗号化も忘れてはなりません。データは送信中やバックアップ中も攻撃の対象となるため、これらの保護も重要です。ネットワーク通信の暗号化には、TLS(Transport Layer Security)やVPN(Virtual Private Network)などの技術を利用して、安全な通信を確保します。また、バックアップデータについても、保存時に暗号化を施し、不正アクセスから守ることが求められます。これにより、データの完全性と機密性を保ち、情報漏洩のリスクを大幅に低減できます。
まとめ
データベース暗号化は、情報漏えい対策、コンプライアンス対応、企業イメージ保全など、現代社会における企業にとって必須のセキュリティ対策といえるでしょう。しかし、処理性能の低下、運用コストの増加、運用上の複雑さといったデメリットも存在します。
これらの課題を克服するためには、適切な暗号化方式の選択、暗号化キーの厳重な管理、運用体制の整備、定期的な監査などが重要です。
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こちらの記事では、D'Amoについて詳しく解説していますので参考にしてください。
D'Amo(ディアモ)
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