「サーバーは止まっていない。セキュリティ対策も、できる範囲で手を打ってきた。それでも、ふと『この基幹システムを、あと10年、誰が守っていくのだろう』と考えると、背筋が寒くなる」――IBM iを運用する情報システム部門長の方から、こうした声を聞く機会が確実に増えています。そして2026年、その漠然とした不安が「数字」としてはっきりと表れました。長年、IBM iユーザーの最大の関心事はサイバーセキュリティでしたが、最新調査では「人材(IBM iスキル)」が初めて首位に立ったのです。本記事では、この潮目の変化を調査データから読み解きながら、情報システム部門長として何から手をつけるべきかを整理します。
対象読者
- IBM i(AS/400)を運用する情報システム部門の責任者・担当者
- RPG技術者の退職や高齢化に危機感を抱いている経営層
- レガシーシステムの属人化を解消したいIT管理者
課題
- IBM iを扱える社内エンジニアが不足している
- システムの仕様が特定の担当者に依存し、ブラックボックス化している
- システム更改やマイグレーションを進めたいが、実務を担える人材がいない
この記事で分かること
- IBM iユーザーの最大の関心事が「人材不足」へと変化した背景と理由
- 人材不足が引き起こす現場の具体的なリスクとシステム更改への影響
- 属人化を解消し、人材リスクに備えるための実践的な解決策
2026年、IBM iの最大の関心事は「人材不足」になった
2026年、IBM iの最大の関心事は「人材不足」になったという事実が、最新の調査データから明らかになりました。Fortraが毎年実施している「2026 IBM i Marketplace Survey(2026年 IBM i マーケットプレイス調査)」の結果から、世界中のIBM iユーザーが抱える課題の潮目が大きく変わったことがわかります。
この調査は、IBM iの利用実態や関心事を世界のユーザーに尋ねる年次調査であり、第12回目となる今回は約320名が回答しています。これまでの常識をくつがえす結果として、「IBM iスキル(人材)」を最も重要な関心事として挙げた回答者が69%にのぼり、調査項目のなかで最多となりました。
一方で、長年にわたりトップの座にあったサイバーセキュリティは64%で2位に後退しています。2017年以来9年連続でセキュリティが首位を守ってきましたが、2026年の調査で初めてその座を明け渡す形となりました。以下の表は、今回の調査における主要な関心事の割合を整理したものです。
| 関心事の項目 | 最も重要な課題として挙げた回答者の割合 | 備考 |
|---|---|---|
| IBM iスキル(人材) | 69% | 初の首位 |
| サイバーセキュリティ | 64% | 2位(9年ぶりの首位陥落) |
ここで注意すべきなのは、この69%や64%という数字が投資予定の割合ではなく、複数の関心事のなかから最も重要な課題として選んだ回答者の割合を示している点です。つまり、セキュリティ対策への投資をやめた企業が増えたわけではありません。サイバーセキュリティは依然として64%という高い水準を維持しており、関心が薄れたわけではないといえます。
セキュリティへの関心が高い状態であるにもかかわらず、それを上回るほどに人材不足への危機感が深刻化していると読み解くのが正確です。IBM iを長く支えてきた業界全体が、システムを守る人がいないという現実に向けて、より強い危機感を抱き始めたことが2026年の大きな変化だといえます。
なぜ「セキュリティ」から「人材」へ潮目が変わったのか?
なぜ「セキュリティ」から「人材」へ潮目が変わったのでしょうか。IBM iスキルへの関心はここ数年で一貫して高まってきました。この首位交代は、ある年に突然起きたわけではありません。IT専門メディアの集計結果から、IBM iスキルを関心事に挙げた回答者の割合は、中期的には上昇を続けていることがわかります。
| 調査年 | IBM iスキルを関心事に挙げた割合 |
|---|---|
| 2020年 | 45% |
| 2022年 | 53% |
| 2024年 | 65% |
| 2025年 | 60% |
| 2026年 | 69% |
多少の上下はありながらも、中期的に高まってきた不安が、ついに他のどの課題も上回った結果だと見るのが自然です。では、なぜここまで人材への関心が高まったのでしょうか。そこには明確な理由が存在します。
技術者の高齢化と継承の遅れ
技術者の高齢化と継承の遅れが、人材への関心が高まった最大の要因です。IBM iを支える技術者の高齢化は、多くの現場で深刻な課題となっています。ある分析結果によれば、IBM iの担当者のうち約7割が50歳以上とされています。長年RPG(IBM iで広く使われてきたプログラミング言語)や独自の運用手順を熟知したベテランが第一線を支えています。
一方で、その知見を引き継ぐ若手が十分に育っていないという現実があります。多くの現場が抱えるこの構図が、数字の背後に隠されています。セキュリティ製品を導入すれば当面はしのげる課題とは異なり、人材やスキルの問題は一朝一夕には解決できません。だからこそ、多くの情報システム部門が最も重い課題として受け止め始めたと考えられます。
「教えるのは難しくない」という希望的な見方
「教えるのは難しくない」という希望的な見方も存在します。IBM iの主席アーキテクトは、IT技術者にIBM iのやり方を教えるのは比較的容易だという趣旨の発言をしています(IT Jungle 2026年2月の報道による) 。裏を返せば、IBM iの人材課題は、そもそも担い手がいないというからではなく、継承の仕組みを用意できていないという側面が大きいと読み解くことができます。
人が採用できないと嘆く前に、いまいる人の知見を組織に残し、外から来た人でも扱える状態に整えることが重要です。この方向にこそ、現実的な打ち手があります。知識を体系化し、わかりやすく伝える仕組みを構築することで、次世代へのスキル継承をスムーズに進めることができます。
※「IBM i」は、International Business Machines Corporationの商標または登録商標です。
「人」が最大リスクになると、現場では何が起きるのか?

「人」が最大リスクになると、現場では何が起きるのかについて、日々サーバーが安定稼働している環境では危機感がぼやけてしまいがちです。しかし、人材不足がもたらすリスクは静かに、そして確実に進行しています。その正体を一言で表すなら、特定の担当者しか内容がわからない状態がシステムのあちこちに蓄積していく「属人化」です。
人材リスクの正体である「属人化」の進行
属人化とは、特定の担当者しか触れない領域が増加していく現象を指します。担当者が在籍しているあいだは日常業務が問題なく回るため、対策が後回しになりやすい性質を持っています。しかし、その担当者が急に長期離脱したとき、不在がそのまま業務停止の危機に直結する危険性をはらんでいます。
業務停止を引き起こす見えないコスト
具体的な場面を想像してみましょう。たとえば、20年以上前に構築された基幹の受注処理プログラムがあり、その内部構造や例外処理の勘どころを特定のベテラン担当者だけが把握しているとします。仕様書は断片的で、プログラムのコードには当時の判断がコメントもなく埋め込まれています。このような状況で担当者が不在になると、他の技術者が読み解こうにも背景を知る人がいないため、ちょっとした仕様変更や障害対応が途端に手のつけられない難題に変わってしまいます。
属人化が恐ろしいのは、それが「見えないコスト」として水面下で積み上がる点です。IBM iが止まらない堅牢なシステムとして長く使われてきたことは大きな強みですが、その安定性ゆえに触れる人が減っていることの危うさが見えにくくなっているという側面もあります。以下の表から、属人化がもたらす具体的なリスクを確認できます。
| リスクの分類 | 現場で起きる具体的な事象 | 事業への影響 |
|---|---|---|
| 保守・運用の停滞 | 障害発生時の原因特定や復旧手順が特定の担当者に依存し、対応が遅れる | 長時間のシステム停止による業務の中断 |
| 改修・拡張の困難化 | プログラムの仕様を把握している人がおらず、新しい機能の追加に膨大な工数がかかる | 市場の変化に合わせた迅速なビジネス展開の阻害 |
| 技術継承の断絶 | 暗黙知が文書化されておらず、新しい人材を採用しても業務を教えることができない | 将来的なシステム維持の限界と移行コストの増大 |
セキュリティ対策への深刻な影響
属人化による人材リスクは、システムの維持だけでなく、サイバーセキュリティ対策とも密接に関わっています。対策の必要性はわかっているものの、手が回らない、あるいは適切に設定できる人がいないという状況が、現場の脆弱性を高める原因となっているのが理由です。
対策遅れが生み出す二次的なリスク
最新の脅威に対応するためには、システムの定期的な見直しやパッチの適用が欠かせません。しかし、人材不足によって日々の運用保守だけで手一杯になると、新たなセキュリティ対策の導入や既存環境の監査にリソースを割くことが難しくなります。たとえば、情報処理推進機構(IPA)が発表している情報セキュリティ10大脅威から読み取れるように、ランサムウェアによる被害や内部不正といった脅威は年々高度化しています。これらの脅威に対抗するための仕組みを構築し運用する人がいなければ、どれほど優れたツールが存在しても意味を成しません。
IBM iの運用現場においてセキュリティへの関心が低下したわけではなく、その土台となる「人」への不安がそれ以上に大きくなったと捉えるべきです。システムを守る人がいなくなることは、そのまま企業全体の情報資産を危険にさらす最大の要因となります。人材不足という課題を放置せず、組織全体で知見を共有できる仕組みづくりへ早期に着手することが求められています。
同じ調査が映すもう一つの現実|更改は進めたいが、動かせる人がいない
人材リスクの深刻さは、同じ調査の別の数字と重ねて見ると、いっそう鮮明にわかります。今回の調査では、回答者の70%が2026年にハードウェアまたはソフトウェア(あるいはその両方)の更改(アップグレード)を予定していると答えており、これは調査史上最高の水準でした。
| 調査項目 | 割合 | 備考 |
|---|---|---|
| ハードウェアまたはソフトウェアの更改予定 | 70% | 調査史上最高の水準 |
| アプリケーションのモダナイゼーションを課題視 | 62% | 既存資産の近代化に対する関心 |
| 高いROI(投資対効果)を得られると回答 | 95% | 他のサーバーとの比較における評価 |
とはいえ、「7割が更改を予定」「約6割がモダナイゼーションを課題視」という数字が示すのは、IBM iユーザーが決して現状維持で満足しているわけではない、という事実です。実際、今回の調査では回答者の95%が「IBM iは他のサーバーと比べて高いROI(投資対効果)を得られる」と答えており、多くのユーザーがIBM iの価値を高く評価したうえで、これからも使い続け、更新していこうとしています。
更改やモダナイゼーションを進めたい」という企業の意欲が高まる一方で、それを実際に計画し、検証し、実行できる人材の確保は容易ではありません。つまり、やりたいことは増えているのに、やれる人が減っているというギャップが生まれています。
このギャップが大きくなるほど、プロジェクトの計画や実行そのものが難しくなります。
更改やモダナイゼーションを確実に進めるためには、技術や製品の選定だけでなく、それを担う人材をどう確保し、育成し、組織として継続的に対応できる体制をどう作るかまで考えることが重要です。
IT人材の不足は社会全体で深刻化しており、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査から見ても、多くの企業が人材の確保や育成に苦慮していることがわかります。IBM iを取り巻く環境においても、AI(人工知能)や生成AIへの関心が前年から大きく上昇し、約4割の回答者が関心事に挙げています。また、事業継続(HA/DR)への関心も約47%と根強い水準です。IBM iを取り巻くテーマは着実に広がっています。しかし、こうした新しいテーマに取り組もうとするほど、それを担う「人」の重要性はいっそう増していくという点は、あらためて押さえておく必要があります。
※「IBM i」は、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標です。
情報システム部門長として、人材リスクに何から備えるか?
では、情報システム部門長として、この人材リスクにどう備えればよいのでしょうか。「若手を採用して育てる」ことはもちろん王道ですが、時間もかかり、すぐに効果が出るものではありません。ここでは、より現実的な2つの発想をご提案します。
| 対策の方向性 | 具体的なアプローチ | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 知見の仕組み化 | 暗黙知のドキュメント化、ツールの活用 | 組織の資産としての知識保存 |
| 属人化の解消 | ソースコードや依存関係の可視化、運用監視の自動化 | 担当者不在時の業務停止リスク低減 |
1. いまいる人の知見を「仕組み」として残す
最も避けたいのは、ベテラン担当者の頭の中にしかない知識を、そのまま失ってしまうことです。プログラムの構造や運用手順、過去のトラブル対応の勘どころといった暗黙知を、可能な範囲でドキュメントやツールを使って「見える化」し、組織の資産として残していくことが重要です。
これは地味な作業ですが、人材リスクへの最も確実な備えの一つといえます。前章で紹介した「IBM iのやり方を教えるのは比較的容易」という見方も、裏を返せば「教えられる状態=知見が見える状態に整えておくこと」が鍵だと示唆しているのが理由です。
また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)などの公共機関から発表されているIT人材に関する調査データなどからも、知見の共有が組織の持続可能性を高めることがわかります。
2. 特定の人しか触れない領域を減らす(属人化の解消)
もう一つは、「その人がいないと動かない」状態そのものを減らしていくことです。たとえば、ソースコードの中身や依存関係を担当者の記憶に頼らず把握できるようにする、運用監視を「気づける人」の目視だけに頼らず仕組みで支えるといった取り組みは、属人化を一段ずつ切り崩していきます。
適切なツールを導入することで、システムの内部構造を自動的に解析し、誰もが理解できる形で可視化できます。人が抜けても業務が止まらない体制に近づけることは、そのまま人材リスクの低減につながります。
三和コムテック株式会社では、IBM iの運用や保守を長く支援してきた立場から、こうした「属人化の解消」や「運用負担の軽減」を後押しするサービスをご用意しています。人材リスクは、一つのツールを入れれば解消するといった単純な問題ではありません。だからこそ、「自社のどこに属人化が溜まっているのか」「どの作業を仕組みで支えられるのか」を一度棚卸しするところから始めることをおすすめします。
大切なのは、人材リスクを「いつか対処する課題」として先送りしないことです。担当者が現役のあいだにこそ、その知見を残し、属人化を減らす取り組みを始められます。人が抜けてからでは、選べる手段はぐっと狭まってしまうのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. IBM i人材の高齢化はどれくらい進んでいますか?
IBM i人材の高齢化は、IT業界全体の課題と連動して深刻な状況にあります。国内のIT人材全体の傾向として、経済産業省のDXレポートからも読み取れるように、レガシーシステムを支える技術者の多くが定年退職の時期を迎えています。IBM iの現場でも、長年システムを支えてきたベテラン担当者が50代以上を占めるケースが非常に多く見受けられます。そのため、数年以内に中核となる人材が不在になるリスクを抱える企業が増加しているのが現状です。
Q2. IBM iのスキル継承にはどのくらいの期間が必要ですか?
IBM iのスキル継承に必要な期間は、対象となる業務範囲や既存のドキュメントの整備状況によって大きく異なります。一般的に、RPG(Report Program Generator)などのプログラミング言語の基本構文を学ぶだけであれば、数ヶ月程度で習得できます。しかし、自社の複雑な業務ロジックや長年蓄積された独自の運用手順を完全に引き継ぐには、数年単位の期間が必要になることが少なくありません。だからこそ、担当者が現役で活躍しているうちから、計画的に引き継ぎを開始することが重要です。
Q3. 属人化を解消するには何から始めればいいですか?
属人化を解消するには、まず現状の業務とシステムの状態を正確に把握することから始めます。具体的な手順として、以下の表に示す3つのステップで進めるのが効果的です。
| ステップ | 実施内容 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 1. 棚卸し | 誰がどの業務を担当し、どのプログラムを管理しているかを可視化できます。 | 特定の人に依存しているブラックボックス化された領域を特定できます。 |
| 2. ドキュメント化 | 頭の中にある運用手順や例外処理のルールを文章や図として記録できます。 | 担当者以外でも業務の流れやシステムの仕様を把握できるようになります。 |
| 3. 業務の標準化 | 個人の経験に頼っていた判断基準を統一し、誰もが同じ手順で作業できる仕組みを構築できます。 | 引き継ぎにかかる時間を大幅に短縮し、業務の品質を一定に保つことができます。 |
これらのステップを一度にすべて完了させるのは難しいため、影響度の高い重要な基幹業務から優先順位をつけて少しずつ取り組むことが成功の秘訣です。
Q4. IBM iエンジニアの採用は難しいですか?
IBM iエンジニアの採用は、非常に難しい傾向にあります。現在、労働市場にいる若手ITエンジニアの多くは、オープン系やWeb系の最新技術を志向する傾向が強いためです。そのため、即戦力となるIBM i専任のエンジニアを外部から中途採用することは容易ではありません。現実的な対策として、社内の若手人材を育成する仕組みを整えることや、専門的な知見を持つ外部のパートナー企業と連携して運用体制を維持することが有効な選択肢となっているのが理由です。
Q5. 人材不足対策にツールは有効ですか?
人材不足対策にツールを活用することは、非常に有効な手段です。たとえば、ソースコードの解析ツールを導入することで、複雑に絡み合ったプログラムの依存関係を自動で可視化できます。また、運用監視ツールを活用すれば、システムのエラー検知や定例処理を自動化できます。これにより、これまでベテラン担当者の目視や経験に頼っていた作業の負担を大幅に軽減し、限られた人数でも安定した運用体制を維持できます。ツールは属人化を解消し、業務を仕組み化するための強力な支援となります。
まとめ
最新の調査において、IBM iユーザーの69%が「人材不足」を最重要課題に挙げた背景には、技術者の高齢化とスキル継承の遅れという深刻な現実があります。これまで重視されてきたセキュリティ以上に「人」が最大のリスクとなり、システムの更改や日々の運用に大きな支障をきたす可能性が高まっています。
この課題を乗り越えるためには、現在の担当者が持つ貴重な知見を「仕組み」として残し、特定の人しか対応できない属人化の領域を計画的に減らしていくことが不可欠です。情報システム部門長をはじめとする管理者は、人材リスクが完全に顕在化してしまう前に、業務の標準化や適切なツールの導入など、具体的な対策へ今すぐ着手することが求められます。
DXやRPA、IBMi、セキュリティなど多彩な領域でソフトウェア開発・導入支援・コンサルティングを行い、
技術と発想の力で企業の課題解決と新たな価値創造を支援しています。
ブログでは、現場で培った知見をもとに、ビジネスを前進させる最新ソリューションやテクノロジー情報を発信します。
- トピックス:
- IBM i
- 関連トピックス:
- 開発・モダナイゼーション





