情報セキュリティのリスクアセスメントは、組織が直面するセキュリティリスクを特定し、その影響と発生可能性を評価する重要な工程です。このアセスメントを通じて、データ漏えいやシステム障害などの潜在的な脅威を早期に発見し、対策の優先順位を明確にします。本記事では、リスクアセスメントの3要素や目的、リスクマネジメントとの違い、さらに具体的な対応策について詳細に解説します。セキュリティ向上のための重要なステップを学びましょう。
情報セキュリティのリスクアセスメントとは?
情報セキュリティのリスクアセスメントとは、企業や組織が直面するセキュリティリスクを特定し、その影響度と発生可能性を評価して、適切な対策を講じるプロセスです。
リスクアセスメントを実施することで、潜在的な脅威や弱点を早期に把握し、データ漏えいやシステム障害などの重大なインシデントを予防できます。
各ポイントに細分化し、詳しく解説します。
リスクアセスメントの3要素
リスクアセスメントの3要素は、機密性、完全性、可用性です。
機密性とは、情報が許可された者だけにアクセスされることを意味し、データ漏えい防止が主な目的です。次に、完全性は情報が正確で改ざんされていないことを保証する要素であり、不正な変更を防ぎます。
最後に、可用性は、必要なときに情報やシステムが利用できる状態を指し、システムのダウンタイムや障害の最小化が求められます。この3要素をバランスよく保つことで、効果的な情報セキュリティ対策が実現します。
リスクアセスメントとリスクマネジメントの違い
アセスメントはリスクを評価する段階であり、マネジメントはその評価結果にもとづいて実際にリスクを管理・対応する段階を指します。
リスクアセスメントは、リスクの特定、評価、分析を通じて、組織が直面する潜在的なリスクを理解するプロセスです。リスクの重大性や発生可能性を判断し、対策の優先順位を設定します。
リスクマネジメントは、リスクアセスメントの結果にもとづいて、リスクを軽減、回避、受容するための具体的な施策を計画・実行するプロセスです。
リスクアセスメントの目的
リスクアセスメントの目的は、企業や組織が直面する潜在的なリスクを特定し、その影響と発生可能性を評価することで、適切な対応策を講じるための基盤を提供することです。
これにより、データ漏えいやシステム障害といったセキュリティ上の脅威を未然に防げます。
また、リスクの優先順位を明確にし、限られたリソースを効果的に配分することで、企業の安全性と業務の継続性向上が可能です。最終的に、リスクアセスメントは企業の信頼性を高め、法的要件を満たすためにも重要な役割を果たします。
ISMSが定義するリスクアセスメントとは
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)が定義するリスクアセスメントは、企業の情報資産を保護するための重要なプロセスであり、リスクを体系的かつ継続的に管理するための基盤です。
ISMSは具体的には、リスクの特定、評価、そして管理策の決定を行うプロセスを指し、これにより情報資産に対する脅威や弱点を可視化します。ISMSにおけるリスクアセスメントの目標は、情報セキュリティの3要素(機密性、完全性、可用性)を守りつつ、事業継続性やコンプライアンスを確保することです。
また、リスク対応策の優先順位を定め、組織全体での適切なリスク軽減を促進する役割も果たします。
リスクアセスメントはなぜ重要なのか
リスクアセスメントが重要な理由とは、企業に起こり得る潜在的な脅威やリスクを特定し、対策の優先順位を決定できることにあります。
- 情報資産を守るため
- 問題の早期発見をするため
- 対策の優先順位付けをするため
- 経済的リスクの軽減のため
上記4つのセクションに分けて1つずつ解説します。
情報資産を守るため
情報資産を守るためにリスクアセスメントが重要なのは、組織が保持する機密データや知的財産が、サイバー攻撃や内部の不正アクセスなど多様な脅威にさらされているからです。情報資産には顧客データ、機密情報、業務上の重要な資料が含まれます。もしそれらの情報が漏えいした場合、事業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
リスクアセスメントは、これらの資産に対する潜在的なリスクを事前に特定し、適切なセキュリティ対策を講じるために有効です。リスクの発生確率や影響を評価し、リソースを効率的に配分することで、限られた予算や人員の中でも最も効果的な保護策を講じられます。
問題の早期発見をするため
リスクアセスメントは、問題の早期発見をするために不可欠です。サイバー攻撃や内部不正、システムの脆弱性といったリスクは、発生する前に対応策を講じなければ、大きな損害を引き起こします。
リスクアセスメントを実施することで、問題の影響範囲や脅威の度合いを事前に特定し、それらが実際に影響を与える前に防止策を取ることが可能です。例えば、脆弱なシステム構成や従業員のセキュリティ意識の欠如といったリスクを早期に認識し、強化することで、重大なインシデントを回避できます。
問題の早期発見は、事後対応のコスト削減や組織全体のセキュリティレベル向上のためにも必須事項となります。
対策の優先順位付けをするため
リスクアセスメントが重要なのは、セキュリティ対策の優先順位を明確にするためです。全てのリスクに対して同時に対応することは、予算やリソースの制約から現実的ではありません。
リスクアセスメントを通じて、各リスクの発生確率や影響度を評価し、どのリスクが最も深刻で、迅速に対応する必要があるかを判断します。例えば、頻繁にサイバー攻撃を受けるリソースと、内部の小規模なリスクでは、対策に割り当てるリソースや時間が異なります。
このプロセスにより、最も効果的なリスク軽減策を優先的に導入でき、結果的に企業全体のセキュリティレベルを効率的に向上させることが可能です。
経済的リスクの軽減のため
リスクアセスメントは、企業の経済的リスクを軽減するために非常に重要です。セキュリティインシデントが発生すると、データの復旧費用、事業停止による損失、法的対応費用など、多大な経済的損害が発生する可能性があります。
リスクアセスメントを実施することで、潜在的なリスクを事前に特定し、適切な対策を講じられ、これらの損害を未然に防げます。例えば、データ漏えいのリスクが高い部門に優先的にセキュリティ対策を導入することで、被害を最小限に抑え、コスト効率のよいリソース配分が可能となります。さらに、インシデントが発生した場合にも迅速な対応ができ、回復コストや損失を大幅に削減できます。
リスクアセスメントの基本的な流れ
リスクアセスメントの基本的な流れは下記のステップで進めていきます。
- リスクを特定する
- リスクを分析する
- リスクを評価し対策の優先順位を付ける
- 次回のリスクアセスメントの日程を決定する
この流れにより、リスクを継続的に管理し、組織のセキュリティを高められます。それぞれの項目を詳しく解説します。
リスクを特定する
リスクを特定するプロセスは、リスクアセスメントの最初の重要なステップです。企業が直面する潜在的な脅威や弱点を洗い出します。これには、内部のシステムやプロセスの脆弱性、外部からのサイバー攻撃、自然災害、ヒューマンエラーなど、さまざまなリスク要因が含まれます。
リスクを特定する際には、従業員からのフィードバックや過去のインシデントデータ、業界のベストプラクティスを活用することが効果的です。見落としや軽視されがちなリスクも洗い出し、適切な対応を検討する基盤が築かれます。
リスクの分析をする
リスクの分析は、特定されたリスクが組織にどのような影響を与えるかを評価する重要なステップです。このプロセスでは、リスクの発生可能性や、そのリスクが事業や情報資産に与える影響度を数値化または定性的に評価します。
リスクの分析には、影響が大きいが発生確率が低いリスクや、発生頻度が高いが影響が軽微なリスクなど、さまざまなパターンが考慮されます。最も深刻なリスクに対して迅速かつ効果的に対応できるようになるのは、これらの考慮により、リスクの優先順位が明確になるためです。
定量的な評価が可能な場合には、リスクのコストや損失額も算出されます。
リスクを評価し対策の優先順位をつける
リスクを評価する際には、各リスクの発生可能性と影響度を定量的または定性的に評価します。最優先で対策を講じる必要があるのは発生頻度が高く、事業に深刻な影響を与えるリスクです。
影響が小さいリスクや発生確率が低いリスクには、対応を後回しにする、あるいはリスクを受容することも検討されます。この評価にもとづき、リスクに対するリソースの最適な配分が可能になります。
ここでは、リスクマトリクスなどのツールが有効です。このツールは可視化しやすくなり、意思決定者が迅速かつ適切な行動を取る手助けをします。優先順位を明確にすることで、効果的かつ効率的なリスク管理が実現します。
次回のリスクアセスメントの日程を決定する
次回のリスクアセスメントの日程を決定することは、継続的なリスク管理の重要な要素です。リスクは時間とともに変化するため、定期的な見直しが欠かせません。
事業環境の変化や新たな技術導入、外部要因などを考慮し、定期的なアセスメントを計画しましょう。通常、年次での実施が推奨されますが、業界や組織の規模に応じて頻度を調整することも重要です。
次回の日程を決定し、組織全体で準備を進めることで、リスク対応力を高められます。
セキュリティリスクアセスメントの具体例一覧
セキュリティリスクアセスメントの具体的な例を4つ紹介します。
- 情報の重要度に応じたリスク評価
- リスク発生割合に応じたリスクアセスメント手法
- 脆弱性基準をもとに評価するリスクアセスメント手法
- リスクの計算式にもとづいたリスクアセスメント手法
それぞれの特徴や期待される効果を理解しましょう。
情報の重要度に応じたリスク評価
情報の重要度に応じたリスク評価は、情報セキュリティの3要素である機密性、完全性、可用性をもとに行います。
機密性は、情報へのアクセスが許可された者だけに限定されるべきかを評価します。例えば、顧客の個人情報や機密文書などは、外部に漏れると重大な損害を引き起こすため、機密性が非常に高い情報として扱われます。
完全性は、情報が改ざんされず、正確で一貫しているかを評価します。例えば、製品設計図の場合、変更履歴管理システムを利用して、全ての改訂が追跡可能であり、不正な改ざんがないかを確認します。会計データでは、ダブルエントリーブックキーピングや内部監査を通じて、データの正確性や不正変更の有無を確認します。
可用性は、必要なときに情報にアクセスできるかを評価します。例えば、顧客の個人データや重要な業務情報が適切に保存され、システム障害やバックアップ不備が原因でアクセスできなくなる事態が避けられるかどうかが評価のポイントです。
下記記事でも情報セキュリティの3要素について解説していますので、あわせてご確認ください。
セキュリティリスクアセスメントの評価項目や手法とは? 具体例とともに解説
リスク発生割合に応じたリスクアセスメント手法
リスク発生割合に応じたリスクアセスメント手法は、特定のリスクがどの程度の頻度で発生し得るかを評価し、対策の優先度を決定するための手法です。リスクの発生可能性と影響度の2つの側面を評価します。
リスクの発生可能性の評価には、過去のデータや業界のトレンド、内部監査の結果などを活用して、どのリスクが頻繁に発生するかを分析します。例えば、サイバー攻撃の頻度が増加している場合、そのリスクは高い発生割合として評価されるため、優先的な対応が必要です。
発生した場合の影響度も考慮します。発生頻度が低くても、甚大な影響を与えるリスクは優先度が高くなります。例として、自然災害は頻繁に発生しないかもしれませんが、一度発生すればシステム全体に甚大な影響を与えるため、リスクアセスメントでは慎重に評価されます。
脆弱性基準をもとに評価するリスクアセスメント手法
脆弱性基準をもとに評価するリスクアセスメント手法は、組織のシステムやプロセスの弱点に焦点を当て、それがどの程度リスクを引き起こす可能性があるかを評価する方法です。パッチ未適用のソフトウェア、不適切なアクセス権管理などが脆弱性を引き起こします。
それらの脆弱性がどれだけリスクに結びつくかを評価します。リスクの優先度が高く設定されるのは、脆弱性の悪用が容易でかつ業務への影響が大きい場合です。ここでは、脆弱性が攻撃者にどのように利用されるかや、その結果としてシステムに与える損害の大きさを検討します。
特定された脆弱性を解消または軽減するための対策を実施します。ここに含むのは、セキュリティパッチの適用やアクセス制御の強化、システムの設定変更などです。
リスクの計算式にもとづいたリスクアセスメント手法
リスクを数値化して評価する手法では、次の計算式で表されます。
リスク = 発生可能性 × 影響度
発生可能性は、リスクが実際に発生する確率を示し、影響度が表すのはそのリスクが発生した場合に組織に与える損害や影響の大きさです。
サイバー攻撃のリスクが高い場合、その発生確率を高く設定し、組織の重要なデータが危険にさらされる場合は影響度も高くなります。この数値を掛け合わせることで、リスクの大きさを定量的に評価でき、他のリスクと比較する際に優先順位をつけることが可能です。
リスクが計算された後、その結果にもとづいて、優先的に対応すべきリスクが明確になります。
情報セキュリティリスクに対応するための5つの考え方
リスクアセスメントだけを行っても、実際に対策しなければセキュリティリスクは解消されません。そこで最後に、情報セキュリティリスクに対応するための5つの考え方を解説します。
対応方法の考え方も理解し、リスクアセスメントを行う際に役立てましょう。
リスクを軽減する
リスクを軽減するとは、リスクの発生確率や影響を最小限に抑えるための対策を講じることです。具体的には、システムの強化やプロセスの改善、従業員へのセキュリティ教育、監査や定期的なメンテナンスを行うことが含まれます。
リスクが完全には消えないものの、被害の範囲や影響を抑えることが可能になります。リスク軽減策は、組織のセキュリティや事業継続性を高めるために不可欠な要素です。
リスクを回避する
リスクを回避するとは、リスクそのものを発生させないための決めごとや、リスクのある行動や決定を避けることを指します。例えば、パソコンの社外持ち出しの禁止や、非暗号化の回線を利用させないことなどが挙げられます。
リスクの高いプロジェクト(大幅な技量不足など)を中止する、あるいは代替の安全な手段を選択することもリスク回避に含まれます。このように、リスクを事前に排除することで、組織の安全性や信頼性を高められます。
リスクが高い作業は専門家に委託する
セキュリティリスクが高い作業や高度な技術が求められる業務は、外部の専門家やクラウドプロバイダに委託することで効果的なリスク軽減が可能です。
専門家は高度なセキュリティ技術や最新の監視体制を提供し、物理的なセキュリティ対策やデータの暗号化、アクセス制御の強化を実施します。自社で管理する負担が軽減され、常に最新のセキュリティアップデートが適用されるため、より高い安全性が確保できます。
保険・保証でリスクに備える
保険や保証を活用することは、情報セキュリティリスクに備える有効な手段です。万が一のサイバー攻撃やデータ漏えいが発生した場合、保険は復旧費用や損失の補填に役立ちます。
サイバー保険は特に、インシデント対応や法律関連の費用をカバーし、業務の継続をサポートします。また、クラウドサービスプロバイダが提供するサービスレベルアグリーメント(SLA)にもとづく保証も、システム障害時の補償を提供し、リスク管理の強化が可能です。
リスクを受け容れる
リスクを受け容れるとは、リスクの発生可能性や影響が小さい、またはリスク対応コストが高すぎる場合に、あえて対策を取らずにリスクを許容することを指します。
例えば、発生頻度が低く、影響が軽微なセキュリティリスクに対しては、リソースを他の重要なリスクに集中させるために受け容れる判断をします。リスクを受け容れる場合でも、リスクが実際に発生した際の対応計画を用意しておくことが重要です。
まとめ
リスクアセスメントは、企業の情報セキュリティを守るために不可欠です。リスクを特定し、その発生確率と影響度を評価して優先順位を決定することで、適切な対策を講じることが可能です。
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