企業が持続的に発展していくためには、いかにして市場価値の高い製品やサービスを効率的に生産・提供するかが重要です。そのため、生産性向上のための業務効率化は、あらゆる事業活動において極めて重要度の高い経営課題といえるでしょう。本記事では業務効率化と生産性向上の関係性や具体的な取り組みについて解説します。
生産性向上とは? 業務効率化との違い
生産性とは、投入した経営資源の総量に対する産出量の割合を示す指標です。人的資源や物的資源、資金などのインプットに対し、どれだけの付加価値額や生産量をアウトプットしたかの比率であり、「生産性=産出量÷投入量」で算出できます。したがって、従来と同じ経営資源の投入量で産出量を増やす、あるいは経営資源の投入量を削減しながら同等の産出量を確保している状態が生産性の向上と定義できます。
一方で業務効率化とは、非効率的な工程の改善や作業の自動化を図る取り組みです。具体的な施策としては「不要な工程の排除」「ITツールの導入による自動化」「増員による作業負荷の軽減」などが挙げられます。生産性を高めるためには業務の効率化や自動化を推進し、より少ないリソースで最大の成果を創出する仕組みを構築しなくてはなりません。たとえば既存の業務プロセスを見直して作業工程の改善を図り、人的資源の投入量を最小化しつつ、従来と同等以上の産出量を維持できれば生産性の向上が実現します。
また、ITツールの導入や人的資源の増員はシステムの運用コストと人件費の増大を招くものの、業務の自動化・効率化によってコストを上回る産出量を創出できれば、生産性が向上した状態を生み出せます。つまり業務効率化は、生産性を向上させるために必要な施策のひとつです。そして生産性向上を目指す取り組みが、結果として業務の効率化を促進する相互補完的な関係性といえます。
生産性向上が求められている背景
近年、働き方改革関連法の施行を背景にして、さまざまな分野で生産性向上が求められています。働き方改革関連法は「一億総活躍社会」のコンセプトに基づき、長時間労働の是正や多様な働き方の確立、公正な待遇の確保などを目的として制定されました。そして2019年4月より大企業を中心として、時間外労働の罰則付き上限規制が順次開始されています(※1)。
働き方改革関連法の施行に伴い、残業時間の上限や年次有給休暇の取得数などが明示されたため、多くの産業で人的資源の稼働時間が大幅に減少すると予測されます。長時間労働の是正によって従来と同等以上の付加価値額や生産量の確保が困難になるため、デジタル活用や業務効率化による生産性の向上が重要課題となっています。
(※1)参照元:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省
なぜ生産性向上が重要なのか
生産性向上が重要課題となっている理由は働き方改革への対応だけではありません。国内で生産性向上が求められている理由として、「人材不足の解消」と「国際競争力の向上」の2点が挙げられます。
人材不足を解消するため
国内では少子高齢化の影響によって生産年齢人口が減少し続けており、さまざまな産業で人材不足の深刻化が加速しています。労働力が不足するなか、働き方改革関連法の影響で長時間労働が是正されるため、時間あたりの業務負荷が増大している企業が少なくありません。業務負荷の増大は従業員エンゲージメントの低下を招き、離職率や定着率の悪化につながります。
従業員一人あたりの業務負荷を増大させることなく、従来と同等以上の生産性を確保するためには、デジタル活用による自動化や作業工程の効率化が不可欠です。生産性の向上によってワークライフバランスが確立された労働環境を整備できれば、従業員エンゲージメントの向上で離職率の低下につながります。また、多くの求職者に選ばれ、新たな人材を確保しやすくなるというメリットがあります。
国際的な競争力を高めるため
現代はデジタル技術の進歩・発展とともに国境を越えた取引が拡大しており、市場のグローバル化が加速度的に進んでいます。また、国内は市場の成熟化に伴って製品やサービスのコモディティ化が進むとともに、市場規模そのものが縮小傾向にあるため、販路開拓に向けて海外市場に進出する企業も少なくありません。
しかし、日本は諸外国に比べてイノベーティブな力に乏しく、地域経済の担い手といえる中小企業の生産性が低い傾向にあります。実際に日本の一人あたりの労働生産性はOECD加盟38カ国のなかで31位となっているのが実情です(※2)。現状のままでは国際市場に取り残される恐れが危惧されるため、他国の企業に負けないためには、生産性の向上による競争優位性の確立が重要な経営課題です。
(※2)参照元:労働生産性の国際比較2023|公益財団法人日本生産性本部
生産性向上を実現するための取り組み
生産性向上を実現する主な取り組みとして挙げられるのが、「業務の総点検」「業務フローの改善」「ITツールの導入」「アウトソーシング化」の四つです。
現状の業務を総点検する
生産性を向上させるためには、まず全体の業務を洗い出してから、効率化や自動化に向けて全社的に取り組むことが必要です。主な施策としては、「業務フローの改善による効率化」「ITツールの導入による自動化」「アウトソーシングの活用による外製化」が挙げられます。必要な施策の詳細は企業の状況によって異なるため、まずは既存の作業工程や生産体制の実態を正確に把握しなくてはなりません。
そのためには業務の手順や配置している人材、作業に要している時間、利用している設備機器、現状の課題などを可視化する工程が必要です。そこで重要な役割を担うのが、ロジックツリーのような情報を体系化するフレームワークです。ロジックツリーの要領で特定の業務に関連する要素を枝葉状に分岐し、各要素を細分化していくことで現状の業務プロセスを俯瞰的な視点から分析できます。
業務フローの改善
生産性の向上を推進する場合、ITツールの導入やアウトソーシングの活用といった「足し算の施策」は相応の投資リスクを伴います。そのため、生産性向上に取り組む初期段階では、無駄な作業の排除や非効率的な工程の見直しなど、コストを最小限に抑える「引き算の施策」を意識しなくてはなりません。このようなシーンで役立つのが「ECRSの4原則」と呼ばれるフレームワークです。
ECRSの4原則とは、「不要な業務の排除(Eliminate)」「分散している業務をまとめる(Combine)」「順序や配置を入れ替える(Rearrange)」「作業を簡素化する(Simplify)」の順番で検証しながら改善を図る思考法です。このプロセスに基づいて無駄な会議の削減や複数書類の統合、収納設備の配置転換、作業工程のテンプレート化といった改善策を推進します。
ITツールの導入
無駄な作業や非効率的な工程を排除したなら、次に検討すべきは業務のデジタル化です。たとえばワークフローシステムの導入によって社内稟議をデジタル化できれば、「申請」→「承認」→「決裁」という一連のプロセスを大幅に効率化できます。紙媒体による稟議が不要になることで、ペーパーレス化によるコスト削減や物理的なスペースの削減、作業負担の軽減、業務スピードの向上などにつながる点も大きなメリットです。
また、グループウェアやコラボレーションツールを導入し、クラウドコンピューティングをベースとしたITインフラを整備することで、時間や場所の制約を受けないデジタルワークプレイスを構築できます。それによって在宅勤務やモバイルワークの生産性向上につながるのはもちろん、育児や介護などの事情を抱える従業員の雇用を確保できるため、人材不足を解消する一助となりえます。
一部業務のアウトソーシング化
生産性向上を実現するためには、企業価値の向上に直結しないノンコア業務のアウトソーシングを検討する必要があります。たとえば問い合わせ対応や備品の管理、清掃作業などは大切な仕事ではあるものの、直接的な利益に結びつく業務ではありません。事業活動においてすべての業務は等しく重要ですが、人的資源や資金は有限なため、可能な限りコア業務にリソースを集中すべきといえます。
たとえば見積書や請求書の作成、伝票の記帳など、一部のバックオフィス業務はRPA(Robotic Process Automation)による自動化が可能ですが、コールセンター業務やITシステムの保守・運用、データ分析とそれに基づく資料作成といった領域には対応できません。こうした業務領域をアウトソーシングできれば、商品開発やマーケティング、商談などのコア業務にリソースを集中できるため、外注コストを上回る付加価値額や生産量を創出できる可能性が高まります。
まとめ
生産性とは、人的資源や物的資源、資金といった経営資源の投入量に対し、どれだけの付加価値額や生産量を創出したかを示す比率です。生産性向上が重要な理由として「人材不足の解消」と「国際競争力の強化」が挙げられます。生産性向上を実現する主な取り組みは、「業務の総点検」「業務フローの改善」「ITツールの導入」「アウトソーシング化」の四つです。生産性を向上するためには現状に即した改善策を立案するとともに、「Automate」のようなRPAを導入する、あるいはアウトソーシングを活用するなど、可能な限りコア業務に経営資源を集中することが大切です。
- トピックス:
- AutoMate